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第54話
折角なので漆黒は裏柳がべた褒めしてくれた正装で裏柳をエストートしつつ何時もの食堂に向かう。
宴と言っても、何時ものメンバーなので仮面は取っていた。
桃も呼んだが、良いだろう。
食堂に入ると拍手で出迎えてくれる。
普通にいつもの場所でいつもより少し豪華な食事をするだけだがだ何だか凄く特別な感じがする。
「ご懐妊おめでとうございます」
「裏柳様おめでとうございます」
「おめでとうございます」
と、皆お祝いの言葉を口にする。
本当に俺、妊娠したんだ。Ωとして出来損ないの俺が、妊娠は難しい言われた俺が妊娠なんて諦めてた。段々と実感が湧いてきて裏柳は感動してポロポロ泣き出してしまう。
「裏柳、ほら主役が泣いてたら皆びっくりするだろ?」
漆黒は裏柳の涙をハンカチで拭く。
「ごめんなさい。凄く嬉しくて……」
他でもない漆黒の子供を身籠れた事が本当に嬉しいのだ。
大事にしなければ。
裏柳は自分のお腹を撫でる。
俺の所に来てくれて有難う。
「俺も嬉しい」
よく見たら漆黒も泣いていた。
裏柳の懐妊は直ぐ国中に広まり、街はお祭り騒ぎである。
毎晩花火が上がった。
鳥や鳥族の長もお祝いに来てくれ。
城中がお祭り騒ぎであった。
桃を白の王国に送り返そうかどうか迷ったを漆黒だったが、桃は裏柳の世話係として残ることになった。
ストレスは胎教に悪いと、皆裏柳の為にあれこれと気を回してくれた。
ワニは毎日体に良さそうな料理を研究して作ってくれたし、フラミンゴはお腹がゆったりした服を沢山作ってくれた。
漆黒も特に仕事も無く、ずっと裏柳の側に居てくれた。
天気の良い日は外で、漆黒がバイオリンを弾いてくれ、それに合わせてに鼻歌を歌ったりもした。
漆黒のバイオリンを聞くと、裏柳の心は和んだ。
凄く聞き心地が良くて、懐かしい気持ちになる。
何も思い出せないが。
それももう苦では無かった。何も思い出せなくても、裏柳は漆黒を愛しているし、漆黒も裏柳を愛していると解るから、不安は無い。
裏柳の妊娠も4ヶ月目に入ると少しお腹も出てきた。
漆黒は裏柳のお腹を撫でたり、子供に話しかけたり、既に良いパパだった。
「名前は何にしようか?」
「俺と裏柳の子供だからな。黒柳とはどうだ」
「悪くないと思う」
そんな話をして笑い合う。向こうへ帰って覚えていたら『黒柳』にしよう。
裏柳は今、クマの縫いぐるみを作っていた。
黒色と緑色のクマだ。漆黒と自分を表している。
俺も忘れたくないが、漆黒にも自分を忘れて欲しく無い。
そして、5ヶ月目に入った。
もうそろそろいつ出てきても良いように白の王国に戻らないといけない。
黒の王国で暮らすのは今夜が最後である。
今日で裏柳が母国に帰ると知っている国民が、最後に盛大に花火を上げてくれた。
それを裏柳と漆黒は城から見ていた。
「綺麗だな」
「ああ……」
花火も綺麗だが、漆黒も綺麗だなと、花火を上げてくれてる国民には申し訳ないが見納めである。漆黒ばかり見てしまう裏柳。
漆黒も裏柳を見てしまうから結局、見つめあってしまう。
「漆黒、最後にお願いが有るんだ」
「最後とか言うなよ!」
もう戻って来ないみたいじゃないか!!
と、ムッとしてしまう漆黒。
「じゃあお願いが有るんだけど……」
「何だ?」
裏柳のお願いなら何でも叶えてあげたい。
「漆黒の番にして欲しい」
そう、懇願する裏柳。
「俺は十年後、子供と共に漆黒の元に戻って来る。その約束の証の意味でも、番にして欲しい」
裏柳は漆黒を抱きしめる。
「……本当に良いのか?」
番にしたらもう、後戻り出来ない。
もし、裏柳が白の王国で好きな人が出来ても、ずっと見ず知らずの男に縛られると言う事だ。
「俺はお前しか愛さない。ここで番にしてくれないと、俺を信用してくれてないと言う意味になるぞ」
「俺はお前を信じてる」
漆黒は裏柳を抱きしめ返す。
盛大な花火を最後まで見る事は無く、二人は強く抱きしめ合うのだった。
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