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第55話
ベッドで優しく口づけされ、愛しさが増す。
「愛してる漆黒」
「俺も愛してるよ裏柳」
漆黒はゆっくり、裏柳の首筋に八重歯を立てる。
少し痛みが走った。
「っ……」
「すまない、痛かったか?」
「嬉しい……」
俺は漆黒の番なんだ。そう思うと涙が溢れた。
「裏柳、有難う。俺の番になってくれて」
「此方こそ有難う」
お互いにお礼を言い合い。何だか恥ずかしくなって二人で笑いあった。
朝、最後の小水を漆黒に渡す。
これから十年も自分なしで、漆黒は大丈夫なのだろうか?
覚えてる覚えてない以前に死んでしまうんじゃないかと不安になる。
黒の王国の王は短命だと言うし……
「桃は小水の補給の為に残しておいたほうが良いんじゃないか」
二人共返そうと、漆黒は裏柳と桃の手を繋いでいた。
「私なら平気ですよ! 小水ぐらい!!」
漆黒は桃の小水は要らないと飲まなかったが、桃は割り切っている。
親愛なる裏柳の旦那様である。二人には幸せで居て欲しいのだ。
「いや、大丈夫だ。何だか力が漲っていてな。多分、裏柳を番にしたからだな」
おそらく歴代で番を作ったのは自分だけ、αであると言うのにΩの番を作らないでいたからそれがストレスで短命だったのかもしれない。
原理はよく解らないが、大丈夫そうである。
「本当ですか?」
「うん、大丈夫だから心配するな」
心配そうな裏柳の頭を撫でる漆黒。
「じゃ行くぞ」
漆黒は合図する。
家臣たちが花を撒いて送り出してくれた。
羊や虎、ワニ辺りは泣いていた。
裏柳は「有難う」と、お礼を言って手を振ったが間に合ったか解らなかった。
気づけばフカフカなベッドの上だ。
白亜が泣いているのが見えた。
「白亜?」
「裏柳!! 良かった。気がついたんだね」
気がついた裏柳に気付き、白亜は医者を呼ぶ。
「君と桃が迷いの森の側で倒れていたんだ。二人共神隠しにあっていたんだけど、桃は何も覚えてなくて、君はなかなか目覚めてくれないし、僕は僕は……」
「心配をおかけしました」
裏柳の手を掴んでポロポロ泣いている白亜。
呼ばれて来た医者であるが、白亜が邪魔で診察出来ない様子である。
一旦、全員外に出される。
「裏柳様、何か覚えておいでですか?」
そう医師に聞かれて首を振る裏柳。
「そうですか、ショックを受けると思うのですが、伝えます。裏柳様はもうすぐ臨月です」
「臨月?」
「もう産む事しか選択は有りません」
「私、妊娠しているのですね。誰の子でしょう。白亜様?」
「解りません。直ぐDNAを検査しましたが異様で…… 恐らく何代も前に魔物の血が混じっていますが、それが未だに色濃く出ている様ですね。詳しくは解りませんでした」
医師は酷く言いにくそうである。
「なる程、私は神隠しに会っている間、魔物と不貞を働いたとそう言う事ですね」
「いえ、あの…… 申し訳ありません。それともう一つ」
更に口が重くなる医師。
「まだ何か有るんですか? まさか双子でしたか?」
「何者かの番にさせられているんです」
「私が?」
「はい……」
「なる程、私は神隠しに会っている間、魔物と不貞を働いた上、番になったと。これは死刑でしょうかね」
裏柳はアハハっと笑ってしまった。
医師には悪い事してしまったな。
「白亜を呼んでください」
そう医師に頼み、白亜を呼び戻して貰う。
「医師から聞きました。私は魔物の赤子を孕み、魔物の番にされてしまいました。妃と言う地位を返上したい。離婚して下さい」
戻ってきた白亜を前に、フッと苦笑してみせる。
「そんな、大丈夫だよ裏柳。僕は君を捨てたりしない。忌々しい子供は森の奥にでも捨てよう。狼の餌にでもしたら良いんだ。君を番に出来ないのは悲しいけど、僕はそれでも君を愛するよ」
とんでもなく酷いことを言い出す白亜。
「私は元から孕み難い体ですし、もう二度と子供を授かる事は無いでしょう。ですからこの子を大事に育てたいのです。なので、不貞を働いたとして私を国外追放にでも島流しにでもしてください」
怖いなぁと思いつつ、頭を下げる裏柳。
「そこまで言うならその子を僕が認知しよう。君を手放したくない。愛してるんだ」
白亜はギュッと裏柳の手を握り、目を見つめて微笑みかける。
裏柳も微笑み返した。
あんなに可愛い弟だと思ってきたが、今はもうそんな風には見る事が出来なかった。
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