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第56話
裏柳が戻って来て一ヶ月。
裏柳は城内で手厚く見守られ、無事元気な男の子を産むことが出来た。
緑色の髪にアメジストの瞳。
名前は『黒柳』と付けた。
そう、裏柳は漆黒の事を覚えていたのだ。
ただ、覚えている事を話してしまうのはリスクが高いと思い、黙っていた。
ちゃんと自分の遺伝子も漆黒の遺伝子も継いでくれた子供が産まれてくれて裏柳は嬉しい。
子供を産んでから体調が整うのを待って裏柳は子供を連れて城から逃げ出した。
白亜に何か良からぬことをされるんじゃないかと恐れたからだ。
城から離れた森の中、ひっそりと佇む小さな空き家。
昔し、誰が教えてくれたのだ。
自分の隠れ家を俺にも教えてくれた。
誰だったか思い出せないが……
ちゃんと手直ししたら住めそうである。
裏柳はさっそく内装に取り掛かるのであった。
そろそろ裏柳が子供を産んだ頃だろうか、無事に産めただろうか。漆黒はソワソワし、落ち着かない様子であった。
公務にも手が付かない有様である。
「近くまで見に行かれては如何ですか?」
呆れた様子の羊に言われ、漆黒は裏柳の様子を近くまで確かめに行く事にした。
裏柳がいる場所を確かめる。
城では無さそうだ。
裏柳の気配を感じ取り場所を確かめる。
ああ、あそこだ。
池の畔に有る空き家。
あそこは俺の隠れ家だった。お母様や他の者の態度に傷つき、虐められた時なんかに逃げ込む家だった。
あそこの場所を教えたのは裏柳だけだ。
裏柳は空き家の場所を覚えて居たらしい。
子供を連れて逃げ込んだのか。
偶然であるが、奇遇な事にあの場所の側、池を挟んだ場所に此方側のバリアが有る。
側まで行って見る事が出来る。
漆黒は直ぐにその場所まで向かった。
「さーてこんなものかな!」
裏柳は掃除を済ませ、修理の為の木を集めて来た。
城の修理等も手伝った事がある。出来る筈だ。
「オギャーオギャー」
「ああ、ミルクかな?」
泣き出した黒柳にお乳を上げる。自分がお乳が出るタイプのΩで良かった。
だが、やはり出が悪い。
黒柳も物足りなさそうだ。
「粉ミルクが足りないか……」
作って飲ませる。少ししたら街に買い足しに行かなければな。
白の王国から自分の愛馬に跨って来たので、買い物も無理では無いが、何かで小遣い稼ぎをしないと……
刺繍でもしよつかなぁ。
裏柳は黒柳にミルクを作り、飲ませつつ、そんな事を考えた。
暫くし、お腹が一杯になったのかお昼寝しだす黒柳。可愛らしいものだ。
裏柳も少し疲れて横になる。赤ちゃんお昼寝タイムだ。
池の畔にやってきた漆黒。
小屋がよく見みえる。
側に木材やら何やらが転がっていた。
自分で空き家を改装する予定なのだろう。
「うむ……」
漆黒はちょと考えると、ちょちょいと魔法をかけて綺麗にしてやった。
このぐらいは良いだろう。
妖精さんが治してくれたとか思ってくれないだろうか。
そして、少しだけでも姿を見せてくれないだろうか。
お昼寝タイムかな?
漆黒は小一時間その場で待ってみたが、今日は姿を見る事は出来なかった。
残念である。
人間である裏柳が此方に気づいてバリアをくぐる分には問題ないが、漆黒みずらか張ったバリアと言えど対魔物、獣用の強力な物だ。自分でも体力を消費してしまう上に、補修も必要になる。おいそれと抜けられる物ではないのだ。
漆黒は少し残念であるが、心ばかしのお手伝いが出来て満足である。
ついでに見つからない様バリアをこっそり小屋の周りに張ってやる。
これで安心だろう。
「また見に来る」
漆黒はそう独り言を零して城に戻るのであった。
起きた裏柳はビックリした。
家が勝手に綺麗な上、少し豪華になっている。
キッチンも、お風呂場もおトイレちゃんと綺麗だ。
凄い! 妖精さん!?
そんな訳ない。
「漆黒が来てくれたのかな?」
そうだ、絶対そうである。
「バブバブ?」
「そうだよ〜、パパが来てくれたんだね」
「キャキャ」
解るのな解らないのか、黒柳が喜んでいて裏柳も嬉しくなる。
そうか、漆黒、様子を見に来てくれたんだ。
「有難う」
お礼を言うと、晩御飯の準備をはじめる裏柳だった。
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