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第57話

 漆黒も公務が有るのでちょくちょくは行けないが、十日に一度ぐらいの頻度で裏柳達の様子を見に行く。  運が良ければ裏柳が外で洗濯をしていたり、畑を耕していたり、赤子と日向ぼっこしている所に出くわす。  その度に、風のイタズラに見せかけて手伝ってやったり、赤子をあやしてみたりしていた。今の所は気付かれていないと思う。  今も裏柳が洗濯物を干していたので、風の悪戯に見せかけて干すのを手伝った。 「わぁ、ほら風の精さんが遊びに来たみたいだよ」 「キャッキャ!」  裏柳が言うと、揺りかごに寝かされていた赤子が起きて喜んで見せる。 「風の精さんにお礼を言おうね」  「バブバブ」 「偉いね〜」  赤子はお礼を言ってくれたのか、裏柳が赤ちゃんを褒める。  可愛いし、何か涙出てきた。  俺もあの輪に入りたいよ〜。  裏柳と、赤子を見守ってそろそろ半年である。  国内は落ち着いており、魔物や獣も仲良くしている。暴動が起きる気配もない。  バリアの補修もだいぶ楽である。  たまに行くぐらきなら行けそうな気がするが、忘れられていたら…… 『誰だ?』  と、聞かれたら怖い。  赤子に泣かれるのも怖いし、最悪、変な化け物が出た場所に住んでられないと、裏柳が引っ越してしまったら……  今は黒の国が近いた魔法で守ってあげられるが、離れられるとバリアで守る事も出来ない。こんな風に顔を見に来ると言う細やかな楽しみさえも、失ってしまう。  漆黒はそれが怖かった。   「よし、干せた。そろそろ家に戻ろうか」 「バブバブ」  裏柳は洗濯物を終え、赤子を抱き上げる。  屋内に入る瞬間、赤子に手を振って貰えた気がして、漆黒も振り返す。  そんな風に見えただけだと思うが、漆黒は嬉しかった。 「風の精に扮して助けてくれるのは有り難いけど、たまには顔を見せてくれても良いのに」  ムーっとした裏柳は洗い物をしながら愚痴ってしまう。 「アウアウ?」  何怒ってるの?と、言う感じで裏柳の服の裾を掴む、黒柳。 「怒って無いよ〜。ちょっと拗ねたけ……」  裏柳は黒柳を抱き上げるとベッドに寝かせる。 「よしよし」  と、あやしながら寝かしつける。  バリアを抜けるのに力を使うからあまり頻繁にはこれないのかも知れないが、もう半年である。  気配だけじゃなく、漆黒の自分も姿が見たい。  そう思うのは我儘なのだろうか。  十年我慢する気だったが、やっぱり十年も会えないのは寂しい。 「タウタウ」  ペチペチと、頬を叩かれる。黒柳は撫でてくれているつもりなのかも知れない。 「有り難う。慰めてくれて」  これでは何方があやして貰っているのか解らないな。  裏柳は苦笑してしまうのだった。

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