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3.大事な大事なご主人様5
*
「ーーー、……み、ななみ!」
名前を呼ばれて目を覚ました。よく通るその声の主は、七海の大切な大切なご主人様だ。
「こんなところで寝るなんて珍しいな。風邪をひくぞ?」
1日の仕事が終わり気が抜けてしまったのか、ソファに座ったまま寝てしまっていたようだ。主人の晴太郎が課題をすると言って部屋に篭っていたので、することがなくて退屈だった。
「すみません……課題は終わりましたか?」
「ああ、余裕だ! 明日の予習も終わって、今日はもうやることがない」
「さすがですね。何か飲みますか?」
「うーん、もう寝るからなあ……ホットミルクがいい!」
「かしこまりました」
ソファから立ち上がりキッチンへ向かって主人が所望するホットミルクを作る。ついでに自分の分の紅茶を淹れる。
あまりよく覚えていないが、なんだかとても懐かしい夢を見た気がする。
10年前に自分を救った幼い神様は、立派な高校生に成長した。
まだ少し幼さが残るぱっちりと大きな瞳と整った顔立ちは、間違いなくイケメンと呼ばれる部類に入る。成績優秀でスポーツも万能。音楽に関しては天才で、楽器も歌も何でも出来る。明るく素直で友達も多い。少し我儘で世間知らずなところもあるが、そんな小さいことはどうだって良い。多少我儘な方が尽くしがいがある。
とにかく、自慢の主人は立派に成長したのだ。
ホットミルクと紅茶の入ったマグカップをローテーブルに置いて彼の隣に座ると、ご機嫌な主人は七海の肩に頭を乗せるように寄りかかって来た。
「何か良いことでもありましたか?」
「ん? 良い事……うん、あったな!」
上目遣いで七海の顔を見ると、晴太郎はくすくすと楽しそうに笑う。
「超レアな七海の寝顔が見れたのが、良いことかな!」
ほら、とスマートフォンの画面を見せられる。そこには眠っている自分の顔が写っていた。
「な……、消してください!」
「嫌だ! レアだから絶対消さない!」
ばっちり寝顔を撮られてしまったのは恥ずかしいが、嬉しそうな晴太郎の顔を見ると、消せなんて強く言うことができない。
こんな感じだから、甘やかしすぎだと社長からお叱りを受けるのだろうか。駄目な自分にため息が出た。
「誰にも見せないでくださいよ?」
「見せない。これは俺のだからな!」
コロコロと変わる愛らしい表情。キラキラ輝く眩しい笑顔。立派な青年に成長しようとしている今でも、それは昔から変わらない。
七海は大事な大事な主人を、どうしてか無性に甘やかしたくなってしまうのだ。
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