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4.成長4
「正直、少し安心しました」
「え、なんでだ? 普通は慰めるところだろう!」
そんなこと言っている晴太郎だが、落ち込んでいるようには全く見えない。いつも通りの彼である。
「私はまだ、主人離れが出来ないみたいです」
「……どういうこと?」
「まだあなたの傍で、あなたのお世話をしたいんですよ。急に恋人の方へ行ってしまわれると、寂しくなってしまいますから」
「……ふーん、そうか」
晴太郎は顔を赤くしてそっぽを向く。どうやら照れてしまったようだ。その様子が可愛らしくて、自然と笑みが溢れた。
「今、ここの掃除が終わったらお茶を淹れますね」
「……ココアがいい」
「はい、少しお待ちください」
さっさと掃除を終わらせて仕舞おうと、シンクをについた泡をザアザアと流す。他の場所に水が跳ねないように丁寧に流していると、そっと後ろから晴太郎が抱き着いてきた。
「どうかしましたか?」
「……ううん、別に」
急にこんなことをするなんて珍しい。
首だけで後ろを向いて晴太郎の様子を確認するが、彼の顔は自分の背中に埋められていて見えなかった。
「俺……、七海と………、………い」
「はい?」
「……やっぱり何でもない!」
着替えて来る、と言って晴太郎はさっさとリビングを出ていってしまった。ちらりと見えた彼の横顔は、ほんのり赤く染まっていた。
先ほどは聞こえないフリをしたが、彼の言葉は実はしっかり七海の耳に届いていた。
『俺は、七海とずっと一緒に居れるなら、それが一番いい』
七海も出来る事なら晴太郎とずっと一緒に居たい。しかし、晴太郎の『一緒に居たい』は、果たして七海の思う『一緒に居たい』と同じ感情なのか。またはそれ以上の感情なのだろうか。
七海の仕事は、晴太郎の見届けること。彼が立派な大人になり、運命の人と出会い結婚して家庭を築くまで見届ける。もしそこに、七海の居場所が無いとしても。
だが今は、晴太郎に大切な人が現れるその時までは。彼の心の内側にいるのは自分だけだったら良いと、七海は思っている。
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