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5.コーディネート5

 地下駐車からホテルのロビーに行き、そこからエレベーターで50階まで一気に上る。  特に預ける荷物は持ってきていないので、クロークをスルーして奥の大広間へ向かう。  まだ開場の時間では無いようで、広いロビーにたくさん人が居て、各々のあいさつをしているようだ。 「あ、晴ちゃん! 七海!」  他の兄弟はどこに居るのだろうと、うろうろして居たらある女性に声を掛けられた。 「あ、さや姉さん。久しぶり!」 「お久しぶりです、紗香様」  駆け寄ってき彼女に、七海は丁寧に一礼する。  彼女は中条家の第二子、晴太郎の上の姉に当たる人物ーー紗香だ。末っ子で歳の離れた弟である晴太郎を可愛がっており、七海とも同い年で話も会うので兄弟たちの中で一番交流がある。 「晴ちゃん、今日のスーツとっても素敵ね。いつもより大人っぽい感じがするわ!」 「えへへ、七海に選んで貰ったんだ!」 「あら、センスが良いのね。七海もなんか雰囲気が違うわね。赤いネクタイ、似合ってるわ」 「ありがとうございます。坊ちゃんに選んで頂きました」 「あら! コーディネートし合うなんて、仲が良いのね!」  改めて仲が良いなんて言われると照れ臭くて、晴太郎と七海は顔を見合わせて苦笑いする。 「あれ、今日はひとり?」 「いいえ、彼もいるわ。黒木! こっちよ!」  少し送れて、彼女の後ろから黒いスーツを着た堅いの良い男性も付いてきた。黒木と呼ばれた彼は、長身の七海よりもさらに背の高いので見つけやすい。 「お嬢様、ここにいましたか!」 「晴ちゃんの姿を見つけたから、つい……」 「よっ、黒木!」 「お久しぶりですね、晴太郎坊ちゃん、七海」  黒木は紗香の世話係兼ボディガードをしている男だ。七海とは違い教育係はしていないが、関係性は晴太郎と七海のものに似ている。使用人としての七海にとって先輩に当たる人物だ。  仲良さげに話す紗香と黒木の左手には、お揃いの指輪が光っている。 「あ、そうだ。姉さんと黒木、婚約おめでとう!」 「おめでとうございます。坊ちゃんと祝いの品を買ったので、後日改めて持っていきますね」 「まあ、ありがとう! どうなる事かと思ったけど……嬉しいわ。ね、黒木?」 「はい。ありがとうございます」  この二人はつい先日、婚約したのだ。  主人と使用人という立場で婚約したのは中条家では初めての事で、一族全員が騒ついたがめでたいことに変わりはない。社長が大変喜んで涙を流したという噂だ。 「じゃあ、私たちは他に挨拶に行くから、またあとでね」 「うん、またね」 「失礼します」  そう言って二人は去っていってしまった。  彼女たちの背中を見送り、姿が見えなくなった頃、晴太郎がぽつりと呟いた。 「姉さんの、使用人を好きになるって……どんな気持ちなんだろう」  七海も晴太郎と似たようなことを考えていた。  主人を好きになった黒木は、きっとかなり悩んだことだろう。悩んで悩んで、悩み抜いて一緒にいることを選んだ彼は、どんな気持ちでその結論をだしたのだろうか。  

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