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5.コーディネート4
車に乗って七海の運転で会場のホテルへ向かう。今日の晴太郎が座っているのは助手席だ。会場に近づくと、晴太郎はなにやらごそごそと動き始めた。どうやらネクタイを結ぼうとしているらしい。
「あれ、上手く出来ないな……」
「車停めたら私がやりますから。大丈夫ですよ」
「む、すまないな」
警備員に誘導され地下駐車へ車を停める。他に人も居ないので、狭い車内でやるより良かれと思い晴太郎を車から下ろす。晴太郎からネクタイを受け取って結んでやろうとしたその時、七海のスマートフォンが鳴った。
「少々お待ち下さい」
「うん」
電話をしてきたのは社長の秘書兼付き人である田中という人物。
「はい、七海です………はい、今着いたところです」
予定時間より早く着いたが、もうすでに他の兄弟たちは到着しているらしい。心配になったので電話してきたそうだ。
他の方々が到着しているのであれば、急がなければ。
田中はそのまま電話で、会場までの道順を教えてくれようとしている。けれども、早く晴太郎のネクタイも結ばなくては。
スマートフォンを肩と首で器用に挟み、両手をフリーにして晴太郎の正面からネクタイを結ぼうとするが、上手くいかない。電話をしながら、そしていつも自分で結ぶのと違う角度からではやり辛い。
だったら自分の時と同じ角度でやれば良い。晴太郎の背後から正面に手を回し、抱きこむようにしてネクタイを結んでやる。
「っな、ななみ?」
後ろから急に密着され、晴太郎は驚いて肩を跳ねさせた。
「はい、はい……50階の奥ですね。クロークは……はい、かしこまりました。では」
電話が終わると同じ頃にネクタイも結び終え、七海は晴太郎を解放した。
「すみません、長電話をしてしまって……あれ、どうかしました?」
「い、いや、何でもない。少し、びっくりした……」
正面からネクタイを整えようとすると、晴太郎は顔を赤くして俯いていた。
びっくりした、と彼は言うが何か驚くようなことはあっただろうかと七海は首を傾げる。
「七海、人のネクタイを結んでやる時、いつもああやってやるのか……?」
「……はい?」
「その、後ろから……」
「ああ、その方がやりやすいですから。でも人のネクタイを結ぶことがほとんど無いので、ああいう事はあまりやりませんが」
「そ、そっか……なら良いんだが……」
晴太郎は安心したようにほっと一息ついた。
急に歯切れが悪くなってしまった晴太郎を少し心配に感じたが、特に機嫌が悪いわけでは無さそうだ。むしろ良いように見えるので、何が何だかわからない。
思春期の子は難しい、と七海は思った。
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