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5.コーディネート3

「七海ー! すまん、これを忘れていた!」  そう言って渡されたのはワインレッドのチーフ。ネクタイの色と同じでセットになったものだ。  チーフを綺麗に畳んでポケットに入れ、ネクタイピンを着けると準備は完了。  上から下までじっと眺めた後、晴太郎がむっと顔を顰めながら言った。 「……背が高いと腹立つくらい似合うな。俺より目立つぞ、おまえ」 「……すみませんが、身長はどうにも出来ません」 「うー……俺はおまえよりでっかくなってやる」  顔は顰めているが、満足している様子なのでこれで良い。せっかく晴太郎が部屋に来たので、この場で着ているスーツを整えてやった。ズレていたカフスを直し、ネクタイをしようとするとストップが掛かった。 「待った。ネクタイは会場入りする直前に着ける」 「……かしこまりました。ちゃんと着けて下さいね」 「わかってる!」  ネクタイを七海から受け取ると、晴太郎はジャケットの内ポケットにしまった。家に忘れて行くというミスは無さそうだ。  脱衣所に移動してワックスで簡単に髪をセットしてやると、晴太郎は満足そうに鏡を使って色々な角度から自身の姿を確認した。 「すごい、七海は何でも出来るな!」 「ありがとうございます」  ついでに自分の髪も整えて、出発の準備は完璧だ。 「あ、七海。香水つけてる?」 「いえ、つけていませんが……つけていきますか?」 「確か、前に下の兄さんから貰ったのがここに……あった!」  洗面台の棚の中から晴太郎が小さな小洒落たビンを取り出す。 「これ、最近流行りの"香水"に出て来るやつらしいぞ。七海知ってる?」 「……ああ、アレですか」 「そうそう。はい、七海も」  晴太郎は自身の手首と首筋に液体をプッシュした後小瓶を渡してきたので、七海は受け取って手首にワンプッシュ。手首を鼻に近づけてみると、グレープフルーツの爽やかな匂いとバジルのスパイシーな香りがした。  隣で晴太郎が自身の手首ではなく、七海の手首に顔を寄せる。 「うん、良い香りだな!」  晴太郎は満足そうにしているが、主人と同じ香りだなんて、なんだか少し照れ臭くてむず痒い。

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