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5.コーディネート2

「七海はどのスーツを着て行くんだ?」 「私はパーティー用のスーツは一着しか持っていないので、いつものやつです」 「ああ、何年か前に買ってやったやつか。そろそろ新着してもいいんじゃないか?」 「いいえ、私はもう背も伸びないですし、アレが良いんですよ」  七海のパーティー用スーツは、何年か前に晴太郎が選んで買ってくれたもの。  中条家に来たばかりの頃、急に立食パーティーの予定が入ったことがあった。七海は平均よりずっと背が高く、人の物を借りて着ることができなかったので急遽買いに行ったのだ。あの頃はまだ学生と使用人の両立で金のない七海に、当時小学生だった晴太郎が買ってやったのだ。  何の躊躇いもなく小さい財布から現金を出す晴太郎に、店員が若干引いていたのをよく覚えている。正直、かなり根の張る物だったので金銭感覚の再教育が必要だと頭を悩ませたが、今となっては良い思い出だ。  晴太郎は何とも思っていないようだが、大切な主人が買ってくれた物なので、長く大事に使いたい。 「スーツはダークグレーだろ? ネクタイは何色にするんだ?」 「そうですね、私はビジネス用の物しか持っていませんし、適当に……」 「え、パーティーだぞ? 会社の時と同じなんて……あ、そうだ! 俺のを貸してやる!」  そう言うと晴太郎はクローゼットの中を物色し始めた。いくつかネクタイを引っ張り出すと、これはどうだと七海の首元に当ててみる。 「うーん、これは……微妙だな。こっちは地味だし……あ、これがいいんじゃないか?」  晴太郎の目に止まったのは、無地のワインレッドのネクタイ。いつも地味な色合いのものを選びがちな七海が絶対に選ばないであろう色。 「派手、ですね……大丈夫でしょうか?」 「いつもの七海と違うが、似合ってるぞ。たまにはこういうのも良いんじゃないか?」 「そうですか。では、これにします」  主人がせっかく選んでくれたのだ。少し目立ってしまうのではないかと心配になったが、この色に決めた。 「では、そろそろお時間ですので着替えてきます。準備をしていてください」 「はーい」  のんびり服を選んでいたら、いつのまにか出発の時間が迫っていた。  七海は急いで自室に戻ってスーツに着替え、財布や車のキー、スマートフォンを上着の内側のポケットに入れる。もしかしたら主人が靴を脱ぐことがあるかもしれない、と念のためポケットサイズの靴ベラもポケットに忍ばせる。最後にネクタイ締めていると、晴太郎が慌てて七海の部屋に駆け込んできた。

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