29 / 170

7.誕生日3

 晴太郎が熱を出したとき、りんごが食べたいと言うのは昔から変わらない。今回もきっとそう言うであろうと思い、昨日のうちにいくつか買ってきたのだ。  きっとあまり食べられないだろうから、4分の1カットを擦りおろす。  それを部屋に持って行き、晴太郎に食べさせていると、玄関のチャイムが鳴った。きっと紗香が来てくれたのだろう。 「お忙しい中、わざわざ来て頂きすみません」 「いいのよ、晴ちゃんのためだもの」  玄関先に居たのは紗香と黒木だ。紗香を晴太郎の部屋に案内し黒木はリビングへ案内する。わざわざ来てくれたふたりに、お茶を出そうと七海はキッチンで準備をしている。 「黒木さんも、わざわざありがとうございます」 「私たちは大丈夫だ。晴太郎様、誕生日なのに可哀想にな……」 「ええ、そうなんです。紗香様からネズミーランドのチケットを頂いて、とても楽しみにしていたのですが……」  2人で待つこと20分程度。紗香がリビングにやってきた。 「検査したけど、残念ながらA型インフルエンザね」 「やはりそうでしたか……」  この季節にあの高熱。七海もそうだろうと予想していたので驚きはしない。 「あとで黒木に薬を持って来させるから、ちゃんと飲ませてあげてね」 「それくらいでしたら、私が取りに行きますよ」 「駄目よ、七海は晴太郎のそばに居てあげないと。あの子、寂しがり屋なんだから」 「……はい、わかりました」  何から何まで申し訳ない、と七海は頭を下げた。先日の件といい、この2人には迷惑をかけ過ぎだ。今度何か礼をしなければ。 「じゃあ私たちはもう行くけど、分からないことがあったら何時でも連絡してね」 「え、もう行かれるのですか? お茶でも……」 「せっかくだけど、ごめんなさい。仕事に行かなきゃ」 「そうでしたか。引き止めてしまってすみません」 「いいえ、気にしないで。じゃあね」  そう言うと2人はさっさと家を出て行ってしまった。本当に忙しそうだ。  七海は2人を見送った後、冷たい水で絞ったタオルを持って晴太郎の部屋へ行く。いつもなら声を掛けてから入るが、寝ているかもしれないので静かにドアを開いた。 「……ぅ、ななみ?」  七海が部屋に入ると晴太郎はすぐに気付いたようで、ゆっくりと目を開いた。

ともだちにシェアしよう!