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9.甘いもの6

「あれ、七海ー? 居ないのか?」  どうやら自分のことを探しているようだ。パタパタと足音がリビングの方へ消えていく。七海は慌てて煙草を箱に戻し、ベランダから自室へ戻り、さらに自室からリビングへ走った。 「お帰りなさいませ、坊ちゃん」 「あ、居た。良かった……」  七海の姿を見つけた晴太郎は、胸に手を当てて深くいきを吐いた。  晴太郎はたった今帰ってきたばかりなので、厚手のコートを着たままだ。コートを預かろうとして近づくと、両手のひらに乗る程度の小さな箱を持っている事に気付いた。 「その……昨日は、ごめん。これ……」 「……私に、ですか?」 「うん、七海に」  グっとぶっきらぼうに晴太郎は七海にその小さな箱を押し付けてきた。一体何だと七海は受け取った箱の中身を覗くと、中には小さいチョコレートのカップケーキが2つ入っていた。 「七海を驚かせたくて、内緒にしてたんだ」 「ケーキ……?」 「七海、テレビ見て食べたいって言ってたろ?」  大きさがバラバラで不恰好なそれは、ひと目見てすぐ手作りだと分かった。 「本当はもっとでかいヤツ作りたかったんだけど、姉さんも俺も作ったこと無くて……これしか出来なかった」    晴太郎が七海のために作ったのだ。料理なんてしたことが無いのに。七海が食べたいと言ったから作った、と彼は言った。じんわりと胸が温かくなった。  ケーキを見つめたまま黙ってしまった七海。それを何か変な方向に勘違いした晴太郎が、不安げに七海の顔を覗き込む。 「やっぱり、こんな不恰好なやつ食べられないか……?」 「いえ………すごく、嬉しい」 「え、ほんと?」 「嬉しすぎて……勿体無くて、食べれません」  嬉しくて嬉しくて、勝手に口角が上がってしまう。こんな些細な事で舞い上がってるのを知られたく無くて、口元を片手で隠した。 「あはは、七海、変なの! 食べてよ!」  晴太郎は七海の反応に少し驚いていたが、すぐににっこりと笑った。眉尻を下げて口を大きく開けて笑う、キラキラして眩しい彼の笑顔。その顔を見て、七海は胸のもやもやが晴れていくのを感じた。 「お茶淹れるので、一緒に食べましょうか」 「うんっ!」  いつの間にかギクシャクした空気が消え、2人の間に流れる空気はいつもの物に戻っていた。  

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