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12.七海の弱点6
「す、すみません、七海さん……ちょっと来てもらえますか?」
少し困ったような声で水森に呼ばれた。何か分からないことがあるのだろうか。
「すみません、一度失礼します」
上司たちに断りを入れ、立ち上がったその時。急にぐらりと視界が揺れた。しまった、と思ったがもう遅い。先程まで摂取していたアルコールがまわりはじめたのだ。少しフラつきながら、なんとかして水森の元へ行く。
「すみません、これは……って、大丈夫ですか? 」
「え、何が?」
「いや、だって……七海さん、顔真っ赤ですよ」
水森に指摘され自身の顔に触れてみると、熱かった。自身の手も見てみたが、甲が少し赤くなっている。視界がはっきりしなくて自分の手がブレて見えた。これは本格的に危ないかもしれない。
「七海さん、少し休んだ方が……」
「いや、大丈夫だ。何か聞きたいことがあったんじゃないのか?」
「でも……」
心配そうにオロオロする水森。彼の気持ちは痛いほど分かる。七海だってもし自分の目の前に顔を赤くした酔っ払いが居たらすぐに部屋へ連れて行って寝かせる。しかし、今それをされる訳にはいかない。他の人たちに酒に弱いと思われる訳にはいかないのだ。
水森の静止を振り切り話を続けようとしたが、全く頭に入ってこない。何か書いた紙を見せられたが文字がぼやけてよく見えない。ぐっと目を細めてやっと見えるようになったが、こんな状態では仕事にならない。
なんとかその場を乗り切らなければ。
絶対にバレてはいけない。バレたら、主人の傍に居られなくなってしまう。それだけは、それだけはーー……
「七海!」
晴太郎の声が聞こえてはっとした。離れた場所にいた晴太郎が、大きな声で七海を呼んだのだ。わざと、みんなに聞こえるような大きな声で。
「一回部屋に戻りたい。付いてきてくれないか?」
「は、はい。かしこまりました」
「ごめんな、水森。七海を借りて行くぞ」
「はい……大丈夫、です」
ほら行くぞ、と晴太郎に腕を引かれて宴会場を出た。きっとひとりだと真っ直ぐ歩くことすら出来なかった。力強く七海の腕を引く晴太郎は、まるでその事を見透しているようだ。
宴会場から離れて晴太郎と二人きりになると、七海も気が抜けてしまったのか、ぐにゃりと視界が歪む。身体が傾くのを抑えられなくて、咄嗟に晴太郎の肩に捕まった。
「……っ、すみません」
「いや、いい。それより、大丈夫か?」
「大丈夫です」
捕まった晴太郎の肩が、自分ほどではないが思ったより厚みがあって驚いた。七海が体重を掛けても、平気な顔をして支えられる。
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