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12.七海の弱点5

「父さんったら、急にそんな事言ったら七海も驚いちゃうでしょ?」 「こんな時だからこそ、言っておこうと思ってな!」  よく見ると社長は少し顔が赤い。酔っておられるようだ。その横でくすくすと笑って居る紗香の顔色は全く変わっていない。さすがである。 「今日みたいな日も働いて……すまんな。みんなにゆっくり楽しんで貰おうと思っていたのだが……」 「いえいえ、私は動いていた方が性に合っているので、お気になさらず」  社長は気にしているようだが、七海は今の状況に何の不満も無い。このような宴会の場では人のグラスや手元が気になって仕方がないので、むしろ自分で動いて居る方が気が楽だ。  ふと彼らの手元を見ると、社長と幸太郎の猪口が空になっていた。これはいけないと思い酌をする。 「社長、幸太郎様も。お注ぎします」 「七海、お前は本当に人のことばかり……ちゃんと飲んでるか? ほら、これを」  酌をしてばかりの七海に、幸太郎が空の猪口を差し出し、七海の手から徳利を取り上げた。 「これ美味いぞ。飲んでみろ」 「は、はい……ありがとうございます」  幸太郎の持つ徳利から、七海の持つ猪口へと並々と注がれる酒。しまった、と七海は思った。  たとえこれが酒豪たちに取っては何ともない量でも、七海にとっては致死量だ。しかし、せっかく幸太郎が気を回してくれたのだ。無碍には出来ない。  日本酒なんて何年も飲んでいないが、きっと大丈夫だ。歳を取ったのだから、多少はアルコールに強くなっているはず。しっかり対策して二日酔い予防の栄養ドリンクも飲んできた。だから、大丈夫だ。   「いただきます」  意を決して、なみなみに注がれた酒を呷る。  熱い物が喉を降って行く感覚の後すぐにぽかぽかと身体が温かくなる。ああ、これが強い酒を飲んだ時の感覚だ。  警戒ばかりしていたが、案外平気だった。普段は顔がすぐ熱くなり、気持ち悪くなってしまうのだが、今日は何ともない。 「七海、こっちも一杯どう?」 「はい、いただきます。紗香様も、どうぞ」  多少なら大丈夫かもしれないと2杯目、3杯目を呷る。本当に平気だったのだ、この時は。

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