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12.七海の弱点8

 晴太郎に身体を支えられながら、なんとか部屋までたどり着いた。部屋の奥には綺麗に布団が敷かれてあったが、そこまでは辿り着けず、畳の上に倒れるように横になった。  眠気がひどい。目を瞑ったらきっとこのまま眠ってしまう。 「七海……どうしよう?」  晴太郎が困ったような声を出す。未成年の晴太郎が酔っ払いの介抱の仕方なんて分かるはずがない。部屋まで運んだが、何をしたら良いのかわからない様子だ。  水が飲みたい。しかし、水を持ってきてくれなんて主人にお使いを頼むような事、七海には言えない。七海を見つめている晴太郎が瞳を不安に揺らした。そんな顔しないで、と晴太郎に手を伸ばそうとした、その時。  コンコン、と部屋をノックする音がした。 「晴太郎、居るよね? 入ってもいい?」  ビクリ、と晴太郎の肩が震えた。ドアの向こうから聞こえたのは風太郎の声。晴太郎は彼の声に応えなかった。先ほど、七海が"バレたらクビ"だと言ったからだ。ここで晴太郎が返事をしたら、確実に知られてしまう。 「……入るよ」  痺れを切らした風太郎がドアを開けた。鍵をかけていないドアは簡単に開き、部屋に風太郎が入ってきた。 「様子がおかしいと思ったら……七海、潰れちゃったんだね」 「兄さん、他の人たちに言わないで!」 「えっ、言わないけど……とりあえず、水飲ませるから晴太郎手伝って」  晴太郎の言葉に少し驚きを見せた風太郎だが、そんなことは後でいい、とすぐに七海の様子を確認する。七海が起きていることが分かると、ホッとした様子で小さく息を吐いた。 「七海、意識あるなら大丈夫だね。水、飲める?」 「……はい、飲めます」  晴太郎の手を借りなんとか身体を起こし、風太郎から水の入ったペットボトルを受け取る。一口飲むと、だいぶ胸の内がすっきりとする。水を飲んだだけだが、先程に比べてだいぶ楽になったような気がする。 「ここで寝るのはアレだし、布団まで行こうか。晴太郎、七海のこと支えてあげて」 「うん!」  ふたりに支えられ、布団の上に横向きで寝かせられる。布団の上に横になると本格的な眠気が襲ってきて、自然と瞼が閉じる。体の怠くて指一本動かせず、ふたりの会話を聞いていることしか出来ない。 「父さんたちには僕が上手く言っておくから、ふたりはもう部屋で休んでていいよ」 「兄さん、ありがとう。俺、どうしたらいいか分かんなかったから、助かった」 「ちょっと気になっちゃったから。明日の朝、また様子見に来るから。じゃあ、おやすみ」 「うん、おやすみなさい」  バタン、とドアの閉まる音。どうやら風太郎が出て行ったようだ。  ふたりきりになった静かな部屋。晴太郎が近くに歩いて来る足音が聞こえる。七海の傍まで来ると、すぐ近くに腰を下ろした。 「……お前のこんな姿、初めて見た。顔、真っ赤だな」  晴太郎はそう言って、さらりと七海の髪を撫でた。いつも七海が晴太郎にしていた撫で方に似ている気がした。その時肌に触れた晴太郎手が冷たくて気持ち良い。  七海の意識はどんどん意識が深く沈んでいく。その時、傍に座る晴太郎が、ぽつりとつぶやくように話し始めた。 「なあ、七海。俺はーー……」

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