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14.晴太郎の音4

「七海……!」  ガチャリ、とドアが開く音。七海が戻ったと思って名前を呼んだが、ドアの向こうに立っていたの紗香と黒木だった。 「ふふっ、ごめんね、七海じゃなくって」  くすくすと笑いながら紗香が言った。いくら相手が姉であっても、呼び間違えたのは恥ずかしい。七海の帰りが待ち遠しくて仕方がないのがバレバレではないか。 「晴ちゃんったら、本当に七海のことが大好きなのね」 「七海のことをお探しのようでしたら、自分が探して来ましょうか?」 「あ、いや……大丈夫。七海は、飲み物を買いに行ってるだけなんだ」  姉には揶揄われるし、黒木には変な気遣いをさせてしまった。 「姉さん、黒木、来てくれてありがとう」 「久しぶりの晴ちゃんの演奏だもの、来るに決まってるじゃない」 「うん……父さんたちは?」 「もちろん、来てるわ。父さんと幸兄さんは挨拶で忙しくて顔を見に来れないみたい。風ちゃんも来るって言ってたけど、会ってないわね。双子は仕事を抜けて晴ちゃんの演奏だけ見に来るって言ってたわ」 「そっか……」  家族みんなが来てくれる。風太郎はこんな賑やかな場所苦手なはずなのに。双子の兄と姉なんて、自分の仕事があるのにわざわざ駆けつけてくれるのだ。みんな期待して楽しみにして、晴太郎の演奏を聴きに来る。  みんなが聴きたいのは、本当に自身の演奏なのか、それとも母のものにそっくりな演奏なのか。その真意は分からない。  みんなの期待に応えられるか、みんなが望む演奏が出来るか。緊張と不安が押し寄せる。  ーー母のような演奏が出来なければ、誰も自分の演奏なんて興味がないのでは? 誰も聴いてくれないかもしれない。 「晴ちゃん、大丈夫?」 「えっ、何が……」 「緊張しているのかしら。手、そんなに握っちゃだめよ」  姉に言われて、手をぎゅっと握り締めていたことに気付いた。力を込めて握り締めていたせいで、掌に爪の痕が残っている。 「お嬢様、そろそろお時間が……」 「あら、もうそんな時間?」  黒木が腕時計を見ながら時間を伝える。紗香にも中条家の長女として、挨拶に行かなければならないところがあるようだ。 「晴ちゃん、頑張ってね! 終わったらまた来るわ」 「うん。姉さん、ありがとう」  そう言うとふたりは慌ただしく控室を出て行ってしまった。忙しい中、わざわざ顔を見に来てくれたのだろうか。本当に紗香は自分のことを想ってくれている良い姉だと思う。  紗香たちが出て行ってしばらくすると、今度はノック無しに、ガチャリと勢いよくドアが開いた。

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