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14.晴太郎の音7

* 「つ、疲れた……」  控室の椅子に浅く座り、背もたれに体を預ける。ひとりきりの部屋で思わず呟いてしまうほど、色んなものを消耗した。  やはり、普段からステージに上がらないとダメだと思った。きっと今の自分の演奏は、以前の自分のものと変わっていない。むしろ下手になったかもしれない。今まで逃げていた結果なのだから仕方がないが、この結果では満足出来ない。ーーもっと上手くなりたい。もっと練習したい。  でも今日は、しっかり弾いた。逃げ出さずにステージに登ってやり切った。今日くらい自分を褒めてやってもいいのではないだろうか。  ーー七海は、聴いててくれただろうか。どう思っただろうか。褒めてくれるだろうか。今はそれが気になって、早くこの部屋に彼が来てくれないかと待ち遠しい。  まだ来ないかとソワソワしながら控室のドアを見ていると、バンっと音を立てて勢いよくドアが開いた。 「晴太郎ー! お疲れ様ー!」 「すっごく良かったぞ! めちゃくちゃ格好良かった!」  飛び込むように控室に入ってきたのは、双子の洋太郎と香菜子だ。ノックも無しに入ってきて、晴太郎が何も言う前に抱き着いて来た。 「もう〜、晴太郎ってばあんなにピアノ弾けたんだねー! 本当にすごいよ!」 「さすが俺たちの自慢の弟だ! 晴太郎の演奏は世界一だよ!」 「えっ、く、苦しいよ……かな姉さん、洋兄さんも落ち着いて!」 「香菜子様、洋太郎様も落ち着きなさい! 晴太郎様が潰れてしまいますよ!」  ぎゅうぎゅうと力任せに抱きしめられ、晴太郎の身体は悲鳴をあげる。潰される前に、ふたりを追いかけて来た須藤によって助けられた。 「ご、ごめん、晴太郎!」 「ごめんね! いやー、感動しちゃってさ!」 「晴太郎様、お疲れ様でした。本当に素晴らしい演奏でした」  香菜子も洋太郎も感情のままに褒めてくれた。須藤にも改めて褒められて、なんだか少し照れくさい。 「はっ! いけません、お二人ともお時間です!」 「うっそ、もうそんな時間なの?!」 「そうか。慌ただしくてごめんな、晴太郎。またな!」 「うん。姉さん、兄さん、須藤も。忙しいのに来てくれてありがとう!」  嵐のように去っていく3人に向かって、晴太郎は大きな声で感謝を伝える。きっと忙しいのになんとか時間を作って来てくれたのだ。  3人が去ったあと、開いたままの扉から紗香と風太郎がひょっこりと顔を出した。 「やあ、晴太郎。お疲れ様」 「晴ちゃん、とっても素敵だったわ!」 「姉さん! 風兄さんも、来てくれてたんだ」  てっきり風太郎は来ていないのかと思っていたので、晴太郎は驚いた。だって、風太郎は人混みが苦手だ。こんなに人が集まる場所、きっと嫌に違いない。 「やっぱり、大事な弟の晴れ舞台だから。今日くらいは見に来ようと思って」 「うん、嬉しいよ。ありがとう」  紗香も風太郎も感動したと褒めてくれた。今まで一日にこんなに褒められたことなんてあっただろうか。

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