80 / 170

15.本心3

*  中条ホールディングス主催のクリスマスパーティー当日も、晴太郎は朝から塾へ行っていた。パーティーの時間に間に合わせるため、夕方に塾へ迎えに行って一旦家に戻り、正装へ着替えて会場に向かうというハードなスケジュールだ。 「晴太郎様、起きてください。着きましたよ」 「……んん、あれ? もう着いたのか……」  助手席で寝ていた晴太郎を起こす。彼はここ最近、短い移動の時間でも寝るようになった。きっと疲れが溜まっているのだ。  昨日も遅くまでピアノのレッスンをして、家に帰ってからも部屋にこもって勉強していた。そして、今日もまた朝早く起きて塾に行く前から勉強を始め、今に至る。そんな生活をしていて、疲れない訳がないのだ。 「まったく、父さんも今年ぐらい俺の欠席許してくれれば良かったのに……」 「たまには息抜きしろ、とおっしゃっていましたね」 「息抜き、と言えるかどうか微妙だなあー」  中条家のお勤めなので、正直息抜きにならないのではないかと七海は思う。勉強以外の事をする、という意味では息抜きかもしれないが。  家に戻り正装に着替える。去年と違って、今年晴太郎が選んだスーツは黒にストライプ柄のシングルジャケット。中には白シャツとグレーのベスト、そして去年七海がしていたワインレッドのネクタイとチーフ。 「どうだ、これ! クッチのスーツ!」 「とてもお似合いですが、いつの間にそんな高価な物を……」 「この前さや姉さんが送ってきてくれた」  社長だけでなく紗香まで、と七海は頭を抱える。実際、ものすごく似合っている。細身の晴太郎にシュッとしたシルエットのスーツはとても良く合っていて様になる。しかし、こんなに何着も高級スーツを与え続けてしまうと、狂った金銭感覚がもっと狂ってしまう。 「七海は……去年と同じか」 「はい、私はこのスーツが気に入っているので」  七海は去年と同じダークグレーのスーツ。ずっと前に晴太郎から頂いた物。今年は中にライトグレーのベストも着ている。 「あれ、ベスト買ったのか?」 「ええ、1枚くらいあっても良いと思って」  実は今日下ろしたてのベスト。一通り着替えたので姿見で確認していると、じっと食い入る様に晴太郎に見つめられている事に気付いた。 「……似合いませんか?」 「えっ、いや、似合ってるよ! その、すごく……かっこいいなあと思って……」  何故か頬を赤くして、もじもじと恥ずかしそうに言う晴太郎。そんな反応はずるい。不意打ちを喰らったような気分だ。そんな風に言われてしまったら七海だって照れてしまう。  誤魔化すために、姿見を見るフリをして晴太郎から視線を逸らした。  ネクタイは去年晴太郎がつけていた深いブルーの水玉模様の物。チーフもブルーのものにした。

ともだちにシェアしよう!