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15.本心3
*
中条ホールディングス主催のクリスマスパーティー当日も、晴太郎は朝から塾へ行っていた。パーティーの時間に間に合わせるため、夕方に塾へ迎えに行って一旦家に戻り、正装へ着替えて会場に向かうというハードなスケジュールだ。
「晴太郎様、起きてください。着きましたよ」
「……んん、あれ? もう着いたのか……」
助手席で寝ていた晴太郎を起こす。彼はここ最近、短い移動の時間でも寝るようになった。きっと疲れが溜まっているのだ。
昨日も遅くまでピアノのレッスンをして、家に帰ってからも部屋にこもって勉強していた。そして、今日もまた朝早く起きて塾に行く前から勉強を始め、今に至る。そんな生活をしていて、疲れない訳がないのだ。
「まったく、父さんも今年ぐらい俺の欠席許してくれれば良かったのに……」
「たまには息抜きしろ、とおっしゃっていましたね」
「息抜き、と言えるかどうか微妙だなあー」
中条家のお勤めなので、正直息抜きにならないのではないかと七海は思う。勉強以外の事をする、という意味では息抜きかもしれないが。
家に戻り正装に着替える。去年と違って、今年晴太郎が選んだスーツは黒にストライプ柄のシングルジャケット。中には白シャツとグレーのベスト、そして去年七海がしていたワインレッドのネクタイとチーフ。
「どうだ、これ! クッチのスーツ!」
「とてもお似合いですが、いつの間にそんな高価な物を……」
「この前さや姉さんが送ってきてくれた」
社長だけでなく紗香まで、と七海は頭を抱える。実際、ものすごく似合っている。細身の晴太郎にシュッとしたシルエットのスーツはとても良く合っていて様になる。しかし、こんなに何着も高級スーツを与え続けてしまうと、狂った金銭感覚がもっと狂ってしまう。
「七海は……去年と同じか」
「はい、私はこのスーツが気に入っているので」
七海は去年と同じダークグレーのスーツ。ずっと前に晴太郎から頂いた物。今年は中にライトグレーのベストも着ている。
「あれ、ベスト買ったのか?」
「ええ、1枚くらいあっても良いと思って」
実は今日下ろしたてのベスト。一通り着替えたので姿見で確認していると、じっと食い入る様に晴太郎に見つめられている事に気付いた。
「……似合いませんか?」
「えっ、いや、似合ってるよ! その、すごく……かっこいいなあと思って……」
何故か頬を赤くして、もじもじと恥ずかしそうに言う晴太郎。そんな反応はずるい。不意打ちを喰らったような気分だ。そんな風に言われてしまったら七海だって照れてしまう。
誤魔化すために、姿見を見るフリをして晴太郎から視線を逸らした。
ネクタイは去年晴太郎がつけていた深いブルーの水玉模様の物。チーフもブルーのものにした。
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