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18.彼の場所へ1
『レディス、アーンド、ジェントルマン! 夢の国へ、ようこそ〜!』
ゲートを潜ると、華々しいアナウンスと愉快な音楽。道を歩けば、海外にあるような建物がたくさん見えて来る。小さなステージで音楽を奏でている人たちがいる。笑顔の着ぐるみがこちらに向かって手を振っている。
晴太郎にとって、ここで目に入る全てのものが新鮮だった。
「わあ……すごい、すごいぞ!」
キラキラと目を輝かせながら、晴太郎は言った。
今日は楽しくて仕方がない。だって、念願叶って夢の国に来ることが出来たのだから。
「坊ちゃん、お待ちください!」
人の多さも全く気にせずどんどん進んでいく晴太郎の後を、パーク内の地図を持った七海が慌てて付いてきた。
「七海、早く早く! アトラクションがいっぱいあるんだよな?」
「何に乗りますか?」
「うーん、そうだな……あっ、アレがいい!」
きょろきょろと周りを見回して目に入ったのは、山の上をトロッコを模した乗り物で走るジェットコースターのようなアトラクション。山が噴火するという派手な演出とともに、きゃああ、と乗っている人たちの悲鳴が聞こえる。すごく楽しそうだ。
「あ、アレですか……?」
期待とわくわくでいっぱいだったこの時の晴太郎は、七海の若干引き攣った顔に気付くことが出来なかった。
七海に異変が現れたのは、ジェットコースターを降りた直後のこと。
「坊ちゃん、すみません……少し、休憩しませんか?」
「……えっ、もう休憩?」
晴太郎は不満気な声を上げた。まだひとつアトラクションに乗ったばかりだ。早すぎるだろうと抗議しようと七海を見上げ、やっとこの時異変に気付いた。
「えっ、大丈夫か? お前、顔真っ青だぞ?」
青白い顔をして、暑くもないのにしっとりと額に汗をかいている。
このような七海は見たことがない。只事ではないと思い、晴太郎は七海の手を引いて、近くにあったベンチに座らせた。その時掴んだ手は、驚くほど冷たくなっていた。
「具合悪かったのか? 迎え呼ぶか?」
「いいえ、大丈夫です……少し休めば、すぐに良くなりますから」
「本当か? 顔色すごく悪いぞ?」
本人は大丈夫だと言っているが、正直七海の大丈夫はあまり信用ならない。晴太郎のことを優先して、いつもすぐに無理をしてしまうからだ。
せっかく来たのに残念だが、やっぱり帰ったほうがいい。具合の悪い七海を放って置くことなんて出来ない。迎えを頼もうと家に電話しようとした晴太郎を、七海があわてて制止した。
「大丈夫です! いつも、こうですから……」
「……いつも?」
何のことだと問うと、七海はバツが悪そうな顔をして晴太郎から目を逸らした。
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