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19.会いたかった1

 寒い冬の日だった。  定時を迎えても、オフィスにはそれなりに人がいる。もうすぐ年末を迎える今の時期、長期休暇に入る前に片付けておきたい仕事は山ほどある。七海もオフィスに残っているうちのひとりだ。    仙台支店に来て、もうすぐ2年が経過しようとしている。まだ駆け出しのこの支店は、東京本社に比べるとバタバタしていて忙しい。人手が少ないので、自然とひとりで受け持つ仕事の量が多くなってしまう。  本社にいた頃は総務部事務課として働いていた七海は、仙台支店に異動とともに、総務部人事課に配属されることになった。  人事課の仕事はもちろん、人手不足のせいで東京にいた頃からやっていた事務課の仕事も任せられている。毎日定時が許された以前と比べててぐっと仕事の量が増えてしまい、残業を強いられる毎日だ。 「七海さん、まだ残っていきます?」 「はい。もう少し片付けてから帰ります」 「そうっすか。では、フロアの施錠お願いしてもいいですか?」  声を掛けてきたのは、同じ人事部の後輩である山田という若い社員だ。彼の言葉で、もうフロアには自分と目の前の彼しかいないことに気付く。時計を見ると、とっくに21時を過ぎていた。仕事に没頭していたせいで、周りが見えていなかったようだ。 「七海さん、仕事しすぎっすよ。あまり無理しないでくださいね」 「ええ、ありがとうございます」 「じゃあ、お先に失礼しますー」  お疲れ様です、と帰宅する彼を見送って、七海は再びデスクに向き直る。  周りの社員に、仕事のし過ぎだと注意されたのは、これで何度目だろうか。いちいち数えていないので、覚えていない。  七海ひとりしかいないフロアは、しんと静まり返っている。日が沈んで暗くなった窓の外と、中途半端に消された照明のせいで薄暗いフロア。この光景も、何度見たかわからない。  窓の外を見ると、絶え間無く雪が降っていた。東京に住んでいるときにみた稀に見るべちゃべちゃな雪とは違って、ここで降るのは地面に積もる雪。去年、初めて見たときには驚いた。雪は道路に積もって人や車の移動の邪魔をする。  もうすぐ22時だ。いつから雪が降っていたのか分からないが、積もる前に帰らなければ。七海はパソコンの電源を落とし、誰もいなくなったフロアを後にした。  ほとんどいつも最後に会社を出て、車に乗って帰宅する。帰宅途中に飲食店に寄るか、コンビニで弁当を買って食事を済ます。これが、仙台支店に異動してからの七海のルーティーンだった。

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