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21.わがまま3

「どうしてそんな危険なことを?!」 「だから、おまえに会いたかったからって言ってるだろう! それに、別に危険なことじゃない。ひとりで遠出するだけだ」 「それが危険なんですよ! ひとりで出掛けたことなんて無いでしょう?! それに、連絡を絶っていたなんて……」 「うっ、ひとりで出掛けたことはなかったけど……俺だってもう子供じゃない。そんなこと余裕だ!」 「確かにもう子供ではありませんが……あなたは特別な……」  ——特別な人だから。  そう言おうとした、その時。  ピリリリリッ、と七海のスマートフォンからけたたましい着信音が鳴りだす。  はっとして、晴太郎と二人で画面を見る。画面に映し出されたのは『中条紗香』の文字。  これは、出るべきなのか。一瞬だけ迷ったが、反射的に通話ボタンを押してしまった。 「……っ、はい、七海です」  即座に電話に出た七海に、晴太郎は驚きと不安が混ざったような複雑な顔を向ける。何で出るんだと言いたそうにしていたが、出てしまったものは仕方がない。仕事で培った速攻で電話に出る癖が、こんな時に発揮されてしまうなんて。  一応、晴太郎にも会話が聞こえるようにスピーカーモードに設定する。 『久しぶりね、七海。元気にしていた?』 「は、はい。元気です。紗香様も、お変わりない様子で」 『ええ。ところで……晴ちゃん、どこにいるか知らない?』 「晴太郎様、ですか?」  晴太郎に視線を向けると、ぶんぶんと左右に大きく首を振った。ここにいることは黙っていてほしいようだ。 「い、いいえ。わかりません」 『そう……じゃあ、言い方を変えるわ』  穏やかな彼女の声から、急に温かみが消える。冷たくはないが、スッと胸に突き刺さるような、棘のある声色。  付き合いの長い七海は知っている。彼女がこのような声で話すとき、それは——……怒っているときだ。 『晴ちゃん、いるでしょう? 黒木が吐いたわ』  ピリついた空気に、七海と晴太郎は息を呑む。普段穏やかで優しい人ほど、怒ったとき恐いと昔からよく聞くが、彼女もしっかりとそれに当てはまる。  急に出てきた黒木の名に、七海は訳もわからず首を傾げる。一体どういうことだと、晴太郎に視線を投げると、彼は何かを諦めたように深いため息をついた。 「……姉さん、ごめんなさい」  観念したように晴太郎が声を発すると、電話の向こうから、安心したような息を吐く音が聞こえた。

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