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22.熱くて熱くて、あたたかい1

 ざあざあとバスルームから音が聞こえる。晴太郎がシャワーを浴びている音だ。  紗香に与えられた“あと1日“の夜。晴太郎が風呂に入っている間、ひとり部屋に残された七海は、ベッドに腰掛けながらぼんやりとテレビを眺めていた。  晴太郎と一緒にいるときはそうでもないが、ひとりになるとどうしても考えてしまう。昼に紗香に言われたことを。  ——会社、辞めていいのよ。  普通のサラリーマンだったら退職なんてこんなに深く考えなかったはずだ。ただ、七海は普通のサラリーマンではない。特別な経緯で中条ホールディングスという大企業に勤めてきた。  きっと紗香はひとりで決められない七海の背中を押してくれた。ただ、本当にそれでいいのか。まだ頭や気持ちの整理ができない。  年末だからだろうか、見たことがないバラエティ番組が流れている。がやがやと楽しそうで賑やかな声が聞こえるが、内容は一切頭に入ってこなかった。  ガラガラ、バタン、とバスルームのドアの音が聞こえて現実に引き戻された。いつの間にかシャワーの音は止んでいて、首からバスタオルをかけた晴太郎が部屋に戻ってきた。頭をしっかり拭いていないせいか、ぽたぽたと髪を伝って雫が落ちる。拭く気も乾かす気もないのか、晴太郎はそのまま七海の隣に腰を落とした。 「ドライヤー見つけませんでした?」 「いや、面倒だったから使わなかった」 「駄目ですよ。乾かさないと、風邪をひいてしまいます」 「えー、大丈夫だって」  晴太郎は大丈夫だと言うが、七海が大丈夫でない。脱衣所にからドライヤーを持ってきてベッドに座り、自分の足の間に晴太郎を座らせた。首にかけてあったタオルで水気を拭き取り、ドライヤーで乾かしてやる。髪まで乾かしてやるなんて、自分はどこまで彼に甘いのだろうか。我ながら呆れてしまうが、不思議と嫌ではない。むしろもっと尽くしたくなってしまう。昔から感じていたが、彼にはそういう不思議な魅力がある。  ある程度乾くと、七海はドライヤーを止める。毛が細くて柔らかい彼の髪に、さらさらと撫でるように指を通す。ふわりと香るシャンプーの匂いは、自分と同じもののはずなのに、どうしてかとても心地よい。 「もう終わった?」 「はい、終わりました」 「ん、そうか」  晴太郎はくあ、と小さなあくびをした。 「もう寝ますか?」 「いや、まだ寝ない」  晴太郎はすっと七海の足の間を抜け出し、膝の上を跨いで向かい合うように座り直す。急にどうしたんだと、自分の膝の上にいるせいで少し高い位置にある彼の顔を見上げると、そっと両手のひらで頬を包まれる。上から額に触れるだけのキスが降ってきた。  なんだ、甘えたいのかと、黙ってキスを受け入れる。それは額、瞼、頬と降ってきて、やがて唇へ。  触れるだけ、なんて油断していた。唇の隙間から、おずおずと彼の舌が侵入してきて、びくりと肩が跳ねる。驚いて、咄嗟に顔を離してしまった。

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