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22.熱くて熱くて、あたたかい2
しまった、と思ったときにはもう遅い。晴太郎がむっとした顔で、七海のことを見下ろしていた。
「…………なんだよ、嫌なのか?」
「い、嫌じゃないです……」
嫌なわけがない。少し、驚いてしまっただけ。
「じゃあいいだろ」
「いえ、でも……」
「でも?」
キスは好きだった。触れるだけのキスも、そうではない深い深いキスも。心が満たされて、脳みそが解けるのではないかというほどふわふわして、気持ちよくて、もっともっと欲しくなる。大人気ないが、好きな人を目の前に、反応しない自信がなかった。
何も言わずに目を伏せた七海が言いたいことを、晴太郎は察したようだった。
「七海が、俺のことを大事にしてくれるのはわかるけどさ……本当に、何もしないで寝てもいいのか?」
「俺は、嫌だぞ」
真っ赤な顔と、薄く涙の膜が張った目。頬を包む彼の手は、燃えるほど熱かった。
大事にしたい、なんて七海の勝手なわがままだ。こんなにも望まれて、それに応えないなんて情けないこと、できるわけがなかった。
もう一度、唇にキスが降ってきた。
勇気を持って言ってくれた晴太郎の気持ちに、七海は応えたい。控えめに差し出された舌を口内に招き、甘く歯を立てて舌を絡ませた。
「……っ、ん」
今度は晴太郎の肩がぴくりと跳ねた。彼の腰に当てていた手のひらを、ゆっくりと撫でるように背中、首へと滑らせる。頸に触れるとぐっと力を入れて引き寄せる。さらに密着して、キスが深くなった。
「ふ、う……っ、は……」
引っ込んだ舌を追いかけるように、今度は彼の口へ舌を差し入れた。上顎や歯列をねっとりとなぞると甘い吐息が漏れる。逃げる彼の舌を逃さないとばかりに絡ませると、ぴちゃぴちゃと唾液同士が絡む音がする。ちゅ、と舌へ吸い付くと、ぶるりと彼の身体が震えたのがわかった。
頬を包んでいた手からはいつの間にか力が抜け、七海の肩にそっと置かれているだけになっていた。身体にも力が入らないのか、ふらりと揺れた。倒れてしまっては危ないと、背中と頭を支え、そっとベットに寝かせる。もちろん、その間も唇同士は離さないまま。
「は、ふぅ……ん、んっ、う……は、あ……」
「……っ、ふ……」
ぢゅるり、と舌を吸って解放してやる。唇同士を繋いでいた銀糸が、ぷつりと切れた。はふはふと苦しそうに浅い息を繰り返す晴太郎の唇が、二人ものが混ざり合ったものでてらてらと光っている。
とろんとした瞳、ピンクに染まった頬、薄く開いた唇、そこから覗く真っ赤な舌。浅い呼吸に伴って上下する胸に、そっと勃ちあがった彼の雄の象徴。自分のキスで、自分が与えた快感でとろとろになった姿を見ていると、ずくりと腰の奥が疼いた。ぞわぞわと興奮が背中を駆け上がってくる。早く、もっと触りたい。もっととろとろに溶けた彼を見たい。もっと、もっと——やはり、止められない。
「……晴太郎様、いいですか?」
こくり、と晴太郎は声を出さずに小さく頷く。
彼の瞳には、未知の快感への恐怖と、熱い快感への期待が込められていた。
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