150 / 170

24.私の主人はワガママな神様10

「……会いたかった」 「うん、俺も。七海に会いたかった」  久しぶりの晴太郎の体温だ。触れ合っているところだけ、熱を持っているように熱い。見つめ合って手を繋いでいるだけだというのに、高鳴る鼓動が抑えられない。それは晴太郎も同じのようで、ソワソワして落ち着かないのが繋いだ手から伝わる。付き合いも長いしいい歳をした大人なのに、これではまるで付き合いたての中学生のようだ。 「ご、ゴホン」  晴太郎に会えた嬉しさを噛み締めていると、運転席からわざとらしい咳払いが聞こえた。 「あのですね、私がいるの忘れてません? 久々の逢瀬が嬉しいのはわかりますけど、さすがに二人の世界に入りすぎてません? 運転手、ここにいるんですけどー!」  山田の声にはっとして、握っていた手を離した。  すっかり山田のことを忘れ、二人きりの世界に入ってしまっていた。声をかけられるのがもう少し遅かったら危なかった。元部下の前で醜態を晒していたかもしれない。  ホッとしている七海とは裏腹に、晴太郎は不満そうにギッと山田を睨みつけていた。 「なんだよ、山田! やっと七海に会えたんだからいいだろう! お前はいい加減空気を読むことを覚えろ!」 「空気を読んで止めたんですよ! 放って置いたらキスとかしてましたよね?! 俺の車で!」 「キスのひとつやふたつくらい別に問題ないだろ」 「問題ありますよ! 現上司と元上司のキスシーンなんて、見たくないですからね!」 「人のことを汚物みたいに言うな!」 「ふ、ふたりとも、落ち着いて下さい!」  ギャンギャンと狭い車内で喧嘩を始めてしまいそうな二人を慌てて止めた。まったく、と二人は互いに呆れたようにため息をついた。  いくらか言い合って落ち着いたのか、山田がまたコホンと咳払いした。 「行き先、あそこでいいんですよね?」 「ああ。予定通りだ」  先程まで子供のように言い争っていた二人とは思えない落ち着いた様子で、相手の意思を確認し合う。短い言葉でやり取りができるのは、互いを信用し合っている証拠だ。なんだかんだウマが合うのだろう。  そういえば、行き先を聞いていなかった。家に帰るのだと思っていたが、向かっている方向が明らかに違う。 「どこに向かっているんですか?」 「……まあ、待て」  尋ねてみたが、晴太郎は教えてくれなかった。主人の晴太郎が答えないのだから、もちろん山田も教えてくれない。  待て、と言った晴太郎の顔は、少しわくわくしているように見えた。

ともだちにシェアしよう!