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24.私の主人はワガママな神様9

 晴太郎はコンサートの準備や仕事で各地を飛び回り、多忙を極めていたので、ここ最近は彼とゆっくり会えずにいた。  だから、本当は今夜はどうしても会いたかった。顔を見て、今日の感想を伝えたかった。このコンサートのためにずっと準備を頑張っていたから、お疲れ様と言って散々甘やかしてやりたかった。残念だが、仕方がない。それはまた今度だ。  七海は山田と一緒に会場を後にし、山田の車を駐めてある駐車場へ向かった。 「あ、七海さん。俺の後ろの席乗ってください」  来たときと同じように、何も考えずに助手席に乗ろうとしたのを山田に止められた。なぜ、とは思ったが特に助手席でないとならない理由はないので、大人しく彼に従う。  七海が後ろの席に乗り込むと、山田はエンジンをかけた。すぐに出発するのかと思っていたが、なかなか発車させない。山田の意図が読めず、どうかしたのかと山田に声をかけようとした、その時。  ——バタン、と七海の座る反対側のドアが勢いよく開く。  ばたばたと急いだ様子で、パーカーにジーンズのラフな格好をした青年が隣のシートに乗り込んできた。帽子を深く被っているせいで、暗い車内では顔がよく見えない。  一瞬、知らない人が乗ってきたのかと驚いた。が、よく見るとこの青年、背格好が彼と同じだ。  まさか、と七海は少し期待してしまう。 「出せ、山田」  声を聞いた途端、期待が確信に変わる。  了解です、と短い返事をして山田は車を発進させた。 「はあー、なんとか逃げ切ったな……とれだけ取材をしたら気が済むんだ、あいつらは……」  どうやら、彼は記者を撒いてきたらしい。ずいぶんバタバタしているなと思ったら、そういう理由だったようだ。うんざりした様子で大きなため息を吐いている。  車が走り出して暫くすると、もう安心だと彼が深く被っていた帽子をとった。 「……やっと会えたな、七海」   ——ああ、やはり、晴太郎だった。  今日はもう会えないと諦めていた人が、隣にいる。会いたくて会いたくて仕方がなかった恋人が、すぐ触れられる距離にいる。それが嬉しくて、胸がじんと温かくなった。 「ごめんな、今まで会う時間作れなくて」 「いえ、そのことは別に……それより、ピアノ、すごく良かった」 「ああ、ありがとう……七海が、来てくれるって言うから……頑張った」  シートの上にあった七海の左手に、そっと晴太郎の右手が重ねられる。

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