170 / 170

4.これから5

*  食事を終えたあと、七海は山田が運転する車で自宅まで送り届けてもらった。 「じゃあな、七海」 「はい。仕事頑張ってください」 「うん、ありがとう。お前もな」  最後に、ちゅ、と晴太郎の頬にキスを落として、車を降りた。同じ車内に山田が居たがここ最近はもう気にしなくなってしまった。運転手の彼はどうせ前を向いているし。  バタン、とドアを閉めると、晴太郎が乗った車は短くクラクションを鳴らして走り出す。七海は車が見えなくなるまで、黙って見送った。  何度も経験していることのはずだが、別れの瞬間というのはやはり寂しい。    普通の恋人同士から見たらたぶん、七海と晴太郎は会う回数が少ない。が、これでもまだ増えた方だ。晴太郎が世界的な演奏者として認められて間もない頃は、もっと会えていない。長期間海外にいるのが当たり前だったので、今より会う頻度はぐっと少なかった。晴太郎が休みでも、七海の仕事が忙しくて会えなかったこともある。だんだん、晴太郎の仕事も七海の仕事も落ち着いて、時間がとれるようになってきた。  きっと1年後にはもっと落ち着いているはず。そして、一緒に暮らす。晴太郎が遠征の時は仕方がないが、家に帰ったら彼がいる。お互い忙しくて時間が取れない時があっても、帰る家は一緒だ。家に晴太郎がいる生活を想像して、胸が温かくなった。  ——あと一年。いちねん、かぁ……  短いようで長い一年という期間。  まだ仮審査の結果が来てないのに。まだあの部屋を契約したわけではないのに。想像だけがどんどん膨らんでいく。  二人で広々と寝れる、大きなベッドを買おう。あと、一緒に食事する大きなダイニングテーブル。そして、一緒に寛ぐふかふかのソファ。あと、晴太郎のための演奏室を一部屋作って。キッチン用品を揃えて、彼のどんなリクエストにも答えられるようになりたい。お揃いの食器、なんて……若すぎるだろうか? でも、悪くない。それから、それから……  今から一緒に暮らす一年後が楽しみで、待ち遠しくて仕方がなかった。                 番外編 おわり

ともだちにシェアしよう!