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4.これから4
コンコン、ガラガラ……
強めのノックがされたと思ったら、返事をする前に個室の横開きのドアが勢いよく開いた。
「お疲れ様です、坊ちゃん。迎えにきました〜。あっ、七海さんお久しぶりですー」
個室に入ってきたのは、晴太郎を迎えにきた山田だった。
第三者の登場に驚いた七海は、晴太郎の手に触れる前に自身の手を引っ込めてしまった。
「あっ、あれ……すいません、お邪魔でしたね……」
「いえっ、大丈夫です!」
「山田……お前はいつもいつも……間が悪い……」
「いや、俺も悪気はないんで……許してくださいよー」
迎えに来たという事は、もうすぐに帰ってしまうのかと思ったが、山田は晴太郎の隣の席に腰を下ろし、店員を呼んでウーロン茶とペペロンチーノを注文した。どうやら、少し食事をしていくらしい。
「そうだ山田、俺引っ越すことになった」
「えっ、マジで言ってます?」
「ああ。七海と一緒に暮らすんだ」
「あー、やっとですか。おめでとうございます」
山田は特に驚くこともなく、さらっとした反応を返した。
「じゃあ俺も引っ越しですね。坊ちゃんたちの家の近くにいい賃貸があればいいんですけど」
「お前は別に近くに来なくていいぞ」
「いやいや、あなたを迎えに行くの大変になるでしょ……」
「でも……いいのか? 姉さんの家と遠くなって」
「え……えっ? 香菜子お嬢様と? 何でです??」
山田の言葉に、七海は少し違和感を感じた。
晴太郎に姉は二人いる。『姉さん』と言っただけなのに、彼はどうして香菜子のことを話していると分かったのだろうか。
この疑問は、次の晴太郎の言葉ですぐに解決した。
「だって、二人はいい感じの仲なんだろ?」
「えっ?!」
「ぶっ?! えっ、な、なんで知ってるんですか?!」
山田は驚きのあまり、飲んでいたウーロン茶を吹き出しそうになっていた。山田の反応を見る限り、誰にも話していないことだったのだろう。
「姉さんもお前も分かりやすいからな。みんな気付いてるぞ」
「うわ……どうしよう……」
晴太郎の発言には七海も驚いた。子供の頃から知る香菜子と、よく面倒を見ていた後輩の山田が……と思うと胸がぽかぽかして、嬉しくなった。
「どのくらい付き合っているんですか?」
「いや、実はまだ付き合っていなくて……何回かふたりで食事をしたり……」
「姉さん、お前からの告白待ってるぞ」
「俺も付き合いたいんですけどねえ……香菜子様、有名人だし、スキャンダルとか出ちゃったら迷惑かけてしまうなと思うと……」
芸能人として活躍し、晴太郎以上にメディア露出の多い香菜子の相手は確かに大変そうだと思った。自分が相手の活動の妨げにならないかと、不安になるのもすごく分かる。が、それ以上に、有名人だろうが雲の上の存在だろうが、好きになってしまったらどうしようもないことを、七海はよく分かっている。山田のことをすごく応援したくなった。
「頑張ってください、山田くん」
「男見せろ、山田」
「マジであなたたちには知られたくなかった……」
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