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南結城という男
南結城は理想的な人間だ。
柊楓にとっても、生徒会に所属している四人にとっても。
龍ヶ崎菊臣は昔から弱い者を助けたいヒーロー願望が強い性格だった。それに加え、自分には護るべき可愛らしい存在があるべきだと考えていた。しかし、今までの彼の人生にそんな人物は存在しなかった。
彼は龍ヶ崎家の三男坊。
可愛がられる存在であれど、誰かを護れる立場ではなかった。だから結城の存在は菊臣にとってこれまでにない程、理想の立場にいた。
この学園の生徒はみな親の保護下にある。しかし、結城の親に力はない。何か問題が起きた時、誰も護ることは出来ない。
だからこそ、結城は菊臣の保護欲を沸き立てた。
龍ヶ崎菊臣にとって南結城は護るべきもの。
財前皐は抜群のカリスマ性により愛人の子という立場から後継者の立場まで成り上がった。しかしながら、一般家庭で育った記憶が時折懐かしく感じた。ふっと感じる疎外感は、彼にしか分からない孤独なのだろう。
だが高校に入学し、見つけた幼い頃に遊んだことのある南結城。結城は一般家庭で育った頃の懐かしい記憶を思い出させてくれる。昔の自分がまだ己の中に生きているのだと安心感を与えてくれる。孤独から救ってくれる。
財前皐にとって南結城は昔の自分を生かしてくれる存在。
曽根柾斗は愛に疎い。幼い頃から両親は別居状態。どちらも愛人がおり、世間体の為に離婚しないそんな両親の元で育った。だからこそ柾斗は愛に疎かった。
生徒会の中で一番結城に興味がないのは柾斗だ。ただ、皐が一心に結城に恋をしている姿を見て、自分もその恋というものに興味を持ち始めた。
彼は1年次から恋人作りに励んだ。しかし、その恋人達とはすぐに別れる。皐にできて自分にはできない恋心。皐が目に付けたのが結城だ。
きっと彼なら皐のように恋というものを教えてくれる。その期待から彼は結城に興味を持っているように接した。
曽根柾斗にとっての南結城は愛を知るための道具。
早乙女鈴太郎は昔から可愛いものが好きだった。徐々に自分も可愛い存在でありたいと願うようになる。しかし、その一方で可愛いは女の子のものという葛藤もあった。そして、可愛い自分を認めてくれる人はいないのではないか。そんな不安を一番最初に晴らしたのが結城だった。
お世辞でもなく、強制的でもない。本心からの言葉。初めて肯定されたことに対して、鈴太郎は心が踊っただろう。
早乙女鈴太郎にとっての南結城は自分を肯定してくれる存在。
柊楓は幼い頃から全てを持っていた。金、力、知識。高校入学後も変わらない。だけど、高校2年にして、自分とは真逆の人間に出会った。
金もない、力もない、頭はいいが知識があるとは言えない。それが結城だ。不思議だった。何もない結城が生きていけるのが。だから知りたくなった。結城が今後どうやって生きて、どうやって欲しているものを得ていくのかを。
柊楓にとっての南結城は、観察物。
南結城は本来なら誰にも相手にされなかった筈だ。南結城でなくても良かった筈だ。それなのに、南結城であらねばならなくなったのは一重に、皆接することで愛情が増し、知らぬ間にその愛が重くなってしまったからだ。
そして、南結城もそれを否定できない。両親の問題はもちろん、彼自身が愛を欲していた。母親からの愛を受け取って、抱き締めておきながら、彼は父親の愛をも求めた。だが、結果はその愛に辿り着くことはなかった。
結城は父親を愛したかった。母親のように。それももうできない。彼に残ったのは母親だけ。だけどその母親も今は会えない。
大人になりきれない子供の結城は愛に飢えている。愛を知っているからこそ、愛を求めている。
だから南結城は離れられない。
無条件に与えられる愛に、逆らえない。
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