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「好きに決まって」

 バスルームから出てもうすぐ始まるのかと思ったら、下着とTシャツを着せられて。リビングに連れていかれると。啓介はオレの髪の毛をドライヤーで乾かし始めた。  こういうとこは……ほんと、優しい。 「なー……啓介?」 「……ん?」 「……なんであんな、怒ってたの?」  うしろに立って、ドライヤーをかけてくれている啓介を振り返って見上げる。 「さっきも言うたけど……お前、触らせすぎ。あと触りすぎ」 「――――……だから、オレそこまで、してないし」 「……抱き付いたり、頭撫でたり、脚マッサージさせたり、何考えとんの」 「――――……」 「ゲームで抱き合うとか、頭なでる位はまだ許すけど、脚触らすって何やねん……」 「……ただの筋肉痛のマッサージだし」 「絶対無い」  乾かし終わって、啓介がドライヤーを止めた。  くる、と振り返って、啓介をまっすぐ、見上げる。 「……足のマッサージされて、そんな、怒られるの意味わかんない。女の子にされてるとかなら、まだ怒られるの分かるんだけどさ」 「……お前、男のオレに抱かれてんのに、男に触られるの、何の意味もないって、本気で思っとんの?」 「――――……」  どういう言い草なんだ。  別にオレ、男に抱かれたくて抱かれてる訳じゃねえし。  しかも、お前以外の男なんか、全く対象外なんだから、もう、絶対、何の意味もない。……と、言ってしまいたくなるけれど。 「ていうかさ、オレ、高校の時も、良に結構マッサージしてもらってたんだけど……知らない??」 「……知っとる。――――……正直、高校ん時から見たくなかった」  ……ん?  何言ってんの?? 「……高校ん時って……お前、色んな女の子と付き合ってた頃じゃん。オレに興味なかっただろ?」 「……あったよ」  ……はい? 「……あったんやけど――――……まだ、その気持ち、認めたくなかったし……認めてない自分に、怒る権利もあらへんから黙っとっただけ……」 「――――……もうほんと……意味わかんね……」  ……高校ん時も、オレに、そういう興味、あったの?? 「……お前、オレの事、いつから――――……」 「――――……多分、会うた時」  ――――……何だそれ。 「……会うた時に好きやて思うたけど――――……認めるまでに時間かかったちゅうか……」  会った時から、好き? 「……じゃあ、認めたくなくて、あんなに女の子と居た訳……?」 「認めるとか関係なく……絶対無理やと思うてたから、諦めようと思てた感じかな。良い子見つけようって」  ――――……何だ、それ。 「今日、お前、バイク乗らないで歩いてくとか言うし、女乗せても無視やし、飯ん時も、近く来えへんし……もう全部、無理」 「――――……それ全部怒ってたのか?」 「怒ってたっていうんやなくて……もう、なんや……無理」 「……だって……お前が、マネージャーとずっと、居るから……」  そう言ったら。  啓介は、え?と止まる。  止まった啓介に、オレも、止まる。  あ。……口走った。 やば。 「――――……何や、いまの?」 「――――……」 「……オレが、マネージャーと居るから?」 「――――……」  ………しまった。 「オレがマネージャーと居ったから、お前、オレの側に来なかったん?」 「――――……っ……」 「……それ、何で?」 「何でって……」 「――――……妬いた、て事?」 「……っ……」  自分の中で、「モヤモヤ」としか表してなかった気持ちを、そんなすっぱり直接聞かれると。否定しかできない。 「……ち、がう……し」 「雅己」  腕を引かれて、顔を真正面から、見つめられる。 「――――……オレな」 「……」 「……会うた時好きやて思うて、それからずっと側でどんどん好きになって。 もう耐えられんて思うたから、お前に言うた」 「――――……」  ……っよく平気で、言えるな。聞いてるだけで、恥ずかしいんだけど。  もう本当に、意味が分からない。 「……オレ、ほんまに、お前が好きやねん」  そんなのもう聞いてたし、今更なのに。  まっすぐ言われたら、一気に、顔が熱くなった。 「――――……っ……」  なんで今さらオレ、こんなに……っ。  大体、好きなんて、もう何回も聞いて――――……。  手の平が、片頬に掛けられて、背けようにも、動かせない。 「……雅己は? オレを、好き?」  ――――……この、タイミングで、聞くか……。  今までまともに聞かずに、きたくせに。  一番、聞かれたくない、タイミングな気がする。  もうなんか、クラクラ、する。  啓介の、視線がまっすぐすぎて。  熱っぽくて。 「……少しでもええから、好きやて思うてたら、そう言うて」 「――――……」  ……少しでもって――――……。  何だよ、それ。もう――――…。    オレの事、分かってんのか、全然分かってねえのか、どっちなんだ。   「……バカなんじゃねえの」 「……雅己?」  ……もう、ほんとに、バカ野郎だ。    啓介の首に手を回し、引き寄せて。  その唇に、一瞬、キス、してしまった。 「……っ……好きに決まって……」 「――――……」  固まってしまって、まじまじと、オレを見てる啓介に、はっと気づいて。 「あ。えっと。た、たぶん……。たぶん、好き、かも、しれない……」 「――――……は?」 「……もしかしたら、好き、かも……」  啓介は、はー、と深い息をついた。 「――――……後に言うたやつは、全部聞かん」 「……っわ」  背中や腰のあたりに手が置かれたと思ったら、ひょい、と軽々持ち上げられて。 「……は?……ちょっ……」  驚いてる隙に、まんまと啓介のベッドの部屋に到着してしまった。  まだ、明るい部屋の、ベッドの上に、そっと降ろされて。  上に覆いかぶされて、頬にキスされる。 「……っ――――そんな荷物みたいに、運ぶなよっ」 「堪忍な。……早う、ベッドに運びたくて」 「……っ……」  こんな、明るい中で、まさか、始めんの?  ……嘘だろ、すげえ、やなんだけど。  さっきから、心臓が、バクバク言ってて、ヤバいのに。  こんな中で、始めたら、死ぬかもしれない……。  そう思ってるのに。  啓介は、Tシャツを脱ぎ捨てて。  オレの脇に手をついて囲い、まっすぐに見下ろしてくる。  ――――……心臓が、痛い、んだけど……。  

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