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「仲直り」※

 バイクで現れて、ヘルメットを外した啓介は髪が濡れてて。  何を言うより聞くより、オレから先に出てきた言葉は。 「……なんでそんな、濡れてんの?」  ――――……だった。  啓介は、肩を竦めて、答える。 「頭冷やそうと思って、シャワー浴びとったから」 「じゃなくて……乾かしてから来てくれても良かったのに」 「……そんな事してる余裕ないわ」 「シャワー浴びてたから、メッセージ見るの遅かった?」 「せやかて、お前からは連絡ないと思うてたし」 「……何で?」 「お前からしたら、オレが何で怒ってるか、きっとちゃんと分かってないやろうし。 もう知らんとか出てきてしもたから」 「――――……」 「怒ってるやろうし、嫌われたかなとも思うて。――――……どう連絡しようか、ずっと考えてた」 「――――……とりあえず、おまえんち、行ってから、話そ……?」  オレが言うと、「ん」と、ヘルメットを渡されて。  ――――……これ、さっき若菜がかぶったんだよな……。  なんて思うと、何だか胸の奥がまたモヤモヤする。  けれど言葉にはせずに、黙ってかぶると、啓介の後ろに乗り込んで、腰につかまる。  さっき、あの子も、啓介の腰にしがみついてたのかな。  見ないようにしてたから、分かんないけど。  ……モヤモヤモヤ。 「ちゃんとつかまってて」 「ん」  走り出したので、少し強く腰に、抱き付く。  ――――……啓介が訳わかんなくて、どうしようかと思った。  もう、こんなあっけなく、終わりなのかなとか。  オレたちって、この関係が終わったら、もう友達にも戻れないのかとか。  どうしようかと思ってただけで。  オレは、怒ってはない。  嫌いなんて、考えもしなかった。  ……ていうか、本気で啓介を嫌いなんて思った事、あったっけ。  ベッドの上で啓介が意地悪な時には、嫌い、のような言葉を言ったりもするけど。でもそれは、別に本気で嫌いな訳じゃないし。  ――――……連絡、しようとしてくれてたなら。  こいつも、まだ、オレのこと、「知らん」とはなってないって事でいいんだよな。  ――――……つか。  オレらの関係って。  付き合うって。  ――――……んな簡単に、「知らん」で、離れちゃうようなものなら。  ……友達の方が断然良いのではないだろうか。  バイクを停めて、マンションのエレベーターを上がって啓介の部屋に帰ると。靴を脱いで上がった瞬間に、抱き締められてしまった。 「……キスしてもええ?」 「……今更、キスいいか、聞くの……?」  逆にそれに距離を感じて、そう聞いたら、啓介はすごく困ったように苦笑い。 「せやかて――――……怒ってないん?」 「……怒ってたの、オレじゃなくて、お前じゃんか」  オレは、胸が、 モヤついてただけだし。  何となく視線を逸らした時。  唇が重なってきて、ゆっくり目を伏せた。 「――――……ん」  少し荒っぽいキス。  ――――……何だろうな。やっぱりまだ怒ってるよな、こいつ。  思うままキスされた後、その唇が、首筋に触れた。  べろ、と舐められて、驚いて声が上がる。 「……ぅわっ、やだっ」 「――――……何で?」  啓介を離そうと藻掻くのだけれど、離せない。 「嫌、だ、すげ、汗かいたし……っ」 「別にええ」 「っ……嫌だ……っ寝転がってたし……っ汚いって。なめ、んなってっ」 「ええ言うてんのに」  「や、だっっ!」  暴れてると、啓介が、はー、と息を吐いた。 「来て」  腕を掴まれて、バスルルーム。  あれよあれよと脱がされて、中に押し込まれる。  すぐ啓介も、服を脱ぎ捨てて、中に入ってくる。  めちゃくちゃ、緊張して、啓介に背を向けていると。  シャワーでお湯を出しながら、啓介が、オレの腕を掴んで、自分の方を向けさせた。 「……オレ、いつも、めっちゃお前の裸、見てるけど」 「……っ」 「……何で風呂、恥ずかしいん?」 「――――……っ」  デ、デリカシーを持てよ……っ!!  明るい所で裸で向き合うとか、恥ずかしいに決まってんじゃん!! 「そんな真っ赤になられると――――… ヤバいんやけど」  ……知るか、もう……バカ!  シャワーを浴びたまま、キスしてくる。  めちゃくちゃ、深い、キス。    もうさっさと体あらって、早く、出たい。  ……いつも体見られてるのになんで恥ずかしいか?  ……っわかんねえよ。  明るい所で、立って、向かい合って、  完全にお前見上げて、体格差を思い知るというか。  ……何だろう。  お湯かけられたり、洗われたりするのも、はっきり言って、すごく嫌。  いつもなら風呂も拒否るのに、微妙な雰囲気だから、つい、抵抗せずについてきてしまったけれど、 すでに、激しく後悔。 「お前さっきシャワー浴びたんだろ、先に出てて、いいってば」  キスが離れた時に告げた言葉を聞いて、面白くなさそうに、目を細めて。 「洗ってやるて」  だから、それが要らないって……っっ  ……誰か助けて。 「話、する、て言ったじゃん」 「――――……あとで、話そ。オレ、とにかく、お前、抱きたい」 「……っ」 「変に突き放してしもたから……すぐ抱きたいのに、汚いから嫌や言うから来たんやんか」  ボディスポンジにボディシャンプーを泡だてて、するりと肌を撫でていく。  自分で洗えば何も感じないその行為なのに、啓介にされると、ぞわりと、慄いてしまう。 「……っ……ぞわぞわするから、自分で、やるってば」 「――――……わざとやし」 「……っ」  首筋も、胸も、脇腹も。  普段なら、何も感じないのに、ゾクゾクして、息が、上がる。 「――――……やっぱ……いや、だって」  手を離させようとするけれど――――……。 「……じっとしといて」  ちゅ、と頬にキスされる。  全身、するすると、洗われて。びく、と震える。 「――――……っ……んん……ぁ……」  感じる所をわざとなぞられて、刺激されて、自然と勃ってしまったそれを、啓介が握った。 「……や、……」 「ええよ、イッて……」 「……っ……」  泡でゆるゆる滑らされて、いつもと違う感覚に、あっという間にイかされて。のけ反った唇を塞がれる。 「……んん……っ……ん……ぅ」  ……うう、だめだ。  ねっとり、じっくり、やる気だ……。 「頭、洗うから目つむってて」  キスを離されたらそう言われて。  シャンプーを付けられて髪を洗われる。  ……これは、ただ素直に気持ちいい。  しばらく優しく洗われて、それからシャワーで流された。 「――――……さっぱりした?」 「うん」 「――――……雅己」  むぎゅー、と抱き締められて、めちゃくちゃキスされる。 「……けい、すけ。も、出ようよ」  胸を押して、啓介を離させる。思ってたよりも素直に離れてくれて、風呂場から脱出できることになった。  先に脱衣所に出た啓介が、バスタオルを、オレの頭からかぶせて、優しく拭き始める。 「自分で拭けるって……」 「えーから」  なんか、風呂場でオレに触ってる間に、少し落ちついてきたのか、  何だか少し、いつもの、優しい啓介に戻ってきた、気がする。

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