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「比べられる?」

 キスが、ゆっくり離れて。  むぎゅ、とまた抱き締められる。 「……何でお前、今日そんな嫌がっとんの?」 「……ていうか、いつも嫌がってるけどな、オレ」  今日だけみたいな言い方にちょっと引っかかって、そう言うと。 「……んな事言うなや」  啓介は思い切り苦笑い。 「……せやけどいつもは、途中から力抜けてくのに。今日、ますます力入っていくんやもん。どないしたん?」  力抜けてくとかいうのに、かなり納得いかないものを感じるけれど。  もうそこ突っ込むともっと恥ずかしい事言われそうなので、無視。 「……明るいの、無理…」 「……明るい? ああ……まあ、明るいけど……何がそんな嫌なん? さっきシャワーも一緒に浴びたやん。いつも完全に真っ暗にはしてへんし。今更……何が嫌なん?」 「……っそりゃ、いつもも少しは見えてる、んだろうけど」 「――――……うん……?」  ……何が嫌って。  …………何が嫌なんだ。  ……見られるの嫌。  ……て、別にオレ、スタイル、普通だし。  そういう意味で、ただ見られて恥ずかしいとかじゃないよな……。  ……あ。分かった。 「……オレ、女じゃないじゃん」 「――――……は??」 「なんとなく見える位ならいいけど……そんなマジマジ見えたら嫌だろ?」 「――――……」  啓介は全然答えてくれないで、オレをじーと、見つめてる。 「……比べられるの嫌だし、啓介だって見えない方が、いいじゃんか」 「――――…………はあ?……」  オレが言い終えても、啓介はものすごい長いこと無言で。  しばらくして。一言、呆れたような声を出した。 「……全然わからん」 「……」  何で分かんないのかな。  ……オレは、女と比べられたくないって言ってるんだけど。  もともと女が好きだったんだろうし、そんなじっくり見られるのは嫌だし。  比べられたくもないし。  だから、見られたくもない。お前だって、見ない方が良くない??  と、思うんだけどな。   「……よう見えたら、オレがお前の事嫌になる、て 事??」 「――――……」  頷くと。  ――――……啓介は、すごく嫌そうに、オレを見た。 「何でそーなんの……?」 「……」 「……お前を見なくても、オレと同じ男やし、どんな体か元々知っとるし」 「――――……」 「分かってて、それでもオレ、お前が好きやて言うてんのやけど……」 「……」 「……全然意味わからん」  啓介がオレを、ベッドに座らせて、再度しっかりと布団で巻いた。 「――――……これ取って、全部見えたら、嫌いになると思うん?」 「――――……」 「……今更お前の体、明るい所で見たからって、初めて知るようなとこ無いし、嫌になるとかありえへんし……」 「――――……」 「……何が言いたいんか、ほんまよう分からん」  うーん。さっきから。何で、分かんないんだろう。  どういえば分かる?? 「……だってお前、ずっと、女の子としてたじゃん」 「――――……」 「……そんなに見過ぎると、女の子と違うって……実感するだろ」  啓介は、じっとオレを見て。  それから、頭に手を置いて、ぐりぐり撫でた。 「女と違うなんて、見なくたって分かっとるんやけど。……前に女としてても、お前が好きで、 今こうなってんのやから…そんなの考える必要ないと思わん? お前やて思うと興奮すんねんから……もう、それだけやんか」 「――――……」 「確かに他の男は、全然触りたくない、ちゅうか女に対してだって、女全員に触りたいとは思わんやろ? 同じやて。結局好きな奴だけに触りたいて事やろが」 「――――……」 「でオレは、女と男全員の中で、お前にだけ、触りたいて事やし」  なんかもう。啓介の、まっすぐすぎな言葉は。  ぐさぐさ刺さってきて。  オレが、啓介を受け入れ切れない理由を。  さらりと吹き飛ばしていきそうな。  オレ、もはや自分の言いたい事が、よく分かんなくなってきた。  

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