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「罰ゲームみたいな」

「啓介は、女と違うのって、嫌じゃないのか?」 「ちゅーか……ほんっまに、意味わからん」  ぷに、と頬をつままれて、啓介が首を傾げる。 「女がええなら、最初から女んとこいくわ。  ……なあ、雅己って、オレが、嫌々、お前に触ってると思うてんの?」  そこまで嫌々とは、思ってないけど……。  でも、あんまり見えないようにやればいいのに、とか。  感じすぎてる姿も、見せたくないとかは、思ってるな。オレ。  だから、いつも、嫌だし。  とは、何となく言えないけど。  啓介は、オレの顔を見て、何となく察したらしく、すごくすごく嫌そうな顔をした。 「……そんな訳ないやろ。どんだけお前に迫ってるんや、オレ」 「――――……」 「……オレが嫌々、男のお前に、なんで迫るん?」 「……分かんない」  ほんと分かんない。 「分かんないー? ほんまアホなんか、雅己…… 一体、何が言いたいねん……」  ……もうこれ以上、何を言いたいのか、自分でも良く分からない。  黙ったオレに、同じくしばらく黙ってた啓介が、ふっとオレを見て。  それから、にやりと笑った。 「ふーん……」 「何だよその笑い?」 「……そーゆう事か。何となく、分かったわ」 「え?」 「結局、雅己はオレの事、結構好きやって事やろ」 「……え?」  何でそーなる?? 「女と比べられたくないとか、男の体で萎えさせたくないとか、そーいう事思うてるってことやろ?」 「――――……」 「……そんなん気になる位、オレの事、好きてことなんちゃうの?」 「――――……」 「オレが嫌んなったら困るから、見られたくない、っちゅう事やないの?」 「……は……?……違うし」  ……何言ってんの、こいつ。  違う違う。そんな事、言ってる訳じゃない。  ……別にそんな事、思ってない。 「――――……」  ――――…………え。これって、そういう事なの?? 「――――……っ」  急に顔が熱くなって。  布団に潜り込もうと思った瞬間。 「待て待て、隠れんなや」  抑えられて、ぐい、と抱き寄せられて。  思い切り、啓介と、真正面で、向かい合ってしまった。 「……真っ赤……」  啓介がふ、と笑う。 「――――……っ離し……」 「離す訳ないやろ……あーもう、お前……ほんまに可愛ぇな」  ぎゅーと、抱き締められてしまう。  ……なんかもう。  ……やっぱり、家に帰りたい、オレ。 「なあ、雅己」 「……っ」 「オレの体、見てみる?」  ――――……はい? 「萎えるか、したくなるか、めっちゃ見てみるってのは、どうや?」  こいつって――――……ほんと、何言ってんだろう……。  ……オレがお前の体、見んの?何で? 「オレはお前見たら、手ぇ出すに決まっとるんやけど」 「……」 「逆に雅己が見てみるんはどうやろかと思う訳。お前がオレを見て、その気になるなら、もう納得しろや。男でも、好きなら一緒て」 「……オレ、そんなにお前好きって、言ったっけ……?」  ……そんな記憶は、ない。 「まーえーからえーから。見る? ……ん?」  見るって……  ――――……何をどう見んの……。  何なんだもう。楽しそうな顔して。   「……見ない」 「なして?」 「……見たくないから」 「失礼やな」  ……何でこんな時でも、お前って、笑うんだろ。 「……普段、マジマジ見ること無いやん。気持ち悪いか、見てみたら?」 「……別に……気持ち悪いなんて、言ってないじゃん」 「だってお前、オレがお前をちゃんと見たら嫌になるって思てんのやろ?」 「――――……」  そうだけど。  それは、お前がって事で……。  そもそも、オレの事じゃないし。 「……よし。見てみて。で、おまえがその気になったら、そのまんましよ」 「……何言ってんだお前、なんないからな、その気になんて」 「えーからえーから」 「――――……っ……今って、露出狂の気分かよ? そんなに人に見せたいの?」  腕掴まれて、何をどうしようとしてるのか分からないまま、拒否って言った言葉に、啓介がまたまた嫌そうな顔して、でもまた、クッと笑う。 「オレ誰にでも見せたい訳やないし。雅己にだけやし。ちゅーか、見せたいてよりは、見てお前がその気になるか試したいだけやし」 「……っ」 「んー――――……どんな体勢で見たい?」 「……っ見たいって言ってないじゃんかっ」 「オレ寝ててもアホみたいやし。じゃあ、こっちな」  全く聞いてくれない啓介は、くるん、と向きを変えて、ベッドの端に腰かける形で座った。 「ん、来いや」  また布団ごと引かれて、啓介の前に降ろされる。  結局オレはまだ布団の中全裸なので、包まれたままで、床にぺたん、と座る。 「………何で、こんな事になってんの……」 「ええやん。お前も、ちょっとは見てみたいやろ、ちゃんと」 「……そんな事言ってない」 「――――……えーから、見て」 「何でそんなに見せたいんだよ……オレは、見せたくないのに」 「そこが、おかしいから、修正したいんよ」 「――――……」  はあ。とため息。  ボクサーパンツしか身に着けてない、裸の啓介の脚の間に座らされるなんて、ついさっきまで、一度も考えもしなかった事態。 「……雅己」 「……?」  呼ばれて、頬に触れられて、見あげると、唇が重なって。  遠慮なく入ってくる舌に、ぞく、と震えて。  しばらくして、唇離されると同時に、腕をとられて少し引き上げられて、啓介に近付かせられる。 「――――……ん、どーぞ?」 「……っ……どーぞ、じゃない、し」  もうほんとに、意味わかんね。  オレが一体何をしたっていうんだ。  なんで、こんな、罰ゲームみたいな……。  思うのだけれど、啓介の態度に、見ない限り、この時間は終わらないと悟る。  ……くそ。  ……見ればいいんだろ。  よく考えたら、別に、見られるのオレじゃないし、恥ずかしいのは見られるお前だよな。  そうだ、オレじゃないじゃん、恥ずかしいの。  ……っっ すっげえ、じっくり見てやる。  そんな見ないでって言うまで、見てやるから。 「……お。急にやる気?」 「うるさい。 つか、もう黙ってろよ」 「んー」  気の抜けた声で返事をされて、ふー、と息をつく。  目の前、改めてマジマジ見る啓介の体。  いきなり下半身に行けず、上半身から、確認。 「――――……」  ……知ってたけど、腹筋、割れてて、綺麗。  何で、こんなカッコいいかな。……ムカつくな。  しばらくぺたぺた腹筋に触ってると、啓介が、クスクス笑った。 「くすぐったいわ。――――……腹筋好きなんは分かったから……」 「……」 「下いったら……?」  ニヤ、と笑う啓介は、もう、どう見たって、楽しんでるとしか、思えない。 「……パンツは……?」 「――――……おろさんと見えへんけど」  またおかしそうに、笑う啓介。 「……つか、そもそもオレ見なくて良いって言ってんのに……」  はー……。  さっきまで、とことん見てやると言ってた勢いは早くも完全に無くなってて、深いため息が、漏れる。

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