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「少しの変化」

 オレが、かなり余計なコトをして、啓介に何にも抵抗できなかったあの日。  あの日を境に。  ……別に何かがものすごく、変わった訳では、無いのだけれど。  ただ、何となく。  ――――……啓介は、本当にオレが好きなのかなと。  女のかわりにしてる訳でもなくて。  女と比べたりしてる、とか、そういうのも、ないのかなと。  何となく、そう思うようになって。  何となく、今迄よりも少し拘らずに、啓介を受け入れられるようになったというか。  啓介の、良く分からない、大好きアピールの言葉を、普通に聞いてられるようになったというか。  その程度の、変化、なのだけれど。  なんだか、前よりも更に啓介は、優しくて。  甘ったるい感じで、接してくる。  気恥ずかしいし、アホなのかなとも思うけど。  前ほど、嫌じゃない、というか。  何だろうなー、と、不思議に思いながら、過ごしていたある日。  水曜の授業が終わって、またしても、啓介宅に連れ帰られて。  もういい加減、一緒に住もうや、家賃もったいないやろ、と言われて。  ……そうかもなあ、なんて思いながら、啓介宅で、夕飯を食べ終わった。  先にシャワーを浴びた啓介と入れ替わってバスルームに行き、シャワーを浴びて、髪を乾かしてからリビングに戻ったら。  啓介がソファに寄りかかって、目を閉じてた。 「……啓介? 寝てる?」 「いや……起きとるよ」  小声で声をかけると、すぐ返事をして、目を開けて、こっちを見てくる。  でも、なんか、だるそう。 「眠い?」 「んー……なあ、雅己、悪いんやけど、今日、布団出して、リビングで寝て?」  背もたれに寄りかかったまま、啓介がそう言った。 「へ?何で?」  答えた瞬間、はっと、気付いた。  なんか夕飯食べてる辺りから、少し元気ないかなと思ってはいた。そういえば、シャワーも、オレを誘う事もなく、静かにさっさと入りに行ったり。出てきた時も何もちょっかいかけず、静かにすれ違ったり。  はっきりとおかしいと感じる程ではなかったけど。  そもそも、口数が少ないし。少しだけ、あれ?とは思ってた。 「……もしかして、やっぱり、具合、悪いの?」 「……ばれとった?」  聞いた雅己に、啓介が苦笑い。 「さっきから元気ねえかなって所々気になってたけど、今、はっきり思った」 「んー……。ほんまちょっとなんやけどな。 うつしたら悪いし」 「熱は?」 「んー……ちょっと熱いくらいなんかなあ。……微熱?」  啓介に近付いて、額に触れる。 「……あ゛あ゛?! 何がちょっとだ、この馬鹿!!」 「ええっ?」 「……ええって何だよ!」  叫んだオレに、啓介もびっくりしたみたいに声を出す。それに対して、オレもまた叫ぶ。 「…………」 「…………」  お互いしばらく沈黙のまま。見つめ合う。 「……つーか、気付かねえの? 微熱じゃねーから」 「そんなに熱いん……?」  そんな事言いながら、自分の額に触れて、首を傾げている。 「……鈍すぎる……そんなにあったら、普通熱あるって自分でも分かるって……」  はああ、と大きなため息。 「お前、とっとと部屋行って、寝てろよ。 体温計と薬、持ってくから」 「んー……。そんなにあるかいなぁ……?」   素直に部屋に向かいながらも、啓介は首を傾げている。  オレは、大きな大きなため息を、もう一度ついた。

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