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「胸の奥が」

「――――……」  すぐにキスを離した啓介の首に、腕を回して。  もう一度、引き寄せた。  ちゅ、と啓介にキスして、じっと、見つめる。 「――――……雅己?」  啓介がクス、と笑って、オレの頬にまた口づけてくる。 「んー……なんか、お前が……オレが男でも、大丈夫なのは、分かった、かも」  そう言うと。  啓介は、パチパチと瞬きをして。 「――――……今更過ぎひん?」  しばらくして、ものすごい苦笑いで言われた。 「だって――――……女の子と超付き合ってたの、オレ知ってるし」 「――――……にしたって。こんなにお前に好きやて言うてるのに」 「……それがよくわかんねーし」  言うと、啓介は、はー、とため息。   「オレ、お前に、言うたよな」 「……何を?」 「一生ずっと居るから、オレと付き合うてって」 「………………」 「裏切ったり、泣かせたり絶対せえへんし、絶対幸せでいさせるから、付き合うてって」 「――――……そう、言われてみれば……言ってたような……」 「はー? 覚えてへんの?」 「だって、お前、そういうセリフ、もう、次から次へと、ポンポンポンポン、付き合えなかったら死ぬかもとか、なんかもう、延々言ってるから……全部なんて覚えてらんないし」 「――――……」  はー。  啓介の深い深い、ため息。 「そもそも啓介さあ……分かった、とりあえず付き合えばいいんだろ、なんて答え方したオレと、よく突き進めるよな……」 「ん?」 「オレの答え。超投げやりだって思わなかった?」 「んー…… とりあえず、オッケイもらえれば良かったから。投げやりでも別によかったんよ」 「……とりあえずで良かったの?」 「ん。そこがスタートて思うてて。とりあえずオッケイもらって、付き合いさえすれば、こっち見させる事できると思うてたし」 「――――……」 「……体繋げられれば、嫌でも意識させられるやろし」 「――――……」 「オレのこと普通に大好きなんは知ってたから、あとはそれをどうこっちの好きに持ってくかって事やから。意識させる手段が使えるようになればええかなて。告白してオッケイもらってそこで満足やなくて、そこが完全にスタートやったから。突き進むしかないやん?」 「――――……」  ――――……くっそ。  なんか。  ……思い通りになりすぎてる気がして、すごく嫌。 「雅己、結構オレの事好きやろ?」 「――――……」 「オレに抱かれるんも、結構好きになってきたやろ?」 「――――……」 「……ずっとオレと居てもええかなー、て思うとるやろ?」 「――――…………」  絶対頷かない。  むかつくから。  人の真上で、嬉しそうな顔してる啓介に、ムッとしてると。 「――――……大好きやで、雅己」  何にも答えてないのに、嬉しそう。  もう、意味が分かんね。  無言で見上げてると。  くす、と笑った啓介に、唇を重ねられる。  すぐに舌がゆっくり絡んできて。  激しくない優しいキス。  整った啓介のドアップと。伏せられた睫毛。  このドアップも。  見慣れたんだけど――――……。  ……なんか、胸の奥が、トクトク弾む。  ――――……のは、気のせいってことにしとこ。 「……っ? ……んん……っっんー……!」  なんかまたどんどん激しくなってきて。  する、と腰に手が回ってきて。 「ん、っ……っつか、しつ、こい……っ!!」  肩を押しのけて、引き離すと、その手首を取られる。 「……もっかいする??」 「……っ絶対しない!!」 「――――……ええやんかー」  ぎゅう、と抱き締められる。 「っいーやーだ!」  断固拒否してると、クッと笑いながら、啓介がオレを抱き締めたまま、仰向けに転がった。つまるところ、完全に、腕枕というか、肩の辺りにのっかってるというか。 啓介の腕の中に完全にすっぽり収まってしまったというか。 「……今はもうせえへんから、しばらくこのまま居って?」 「……しないなら」 「ん。せえへん。……今はな」  最後、クスクス笑って。  啓介が、ぎゅ、と抱き締めてくる。  ……ほんとにまったく。  ……油断も隙もないなー……。  ……さっき、ちょっと、胸の奥が、弾んでたとか。  ――――…… 絶対、気のせいだ。

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