48 / 230

「何かヤバい……」

 駅ビルの店で夕飯を購入。もう遅いし、言われた通り早く帰ろうと思って、総菜とか諸々買って、急いで帰る。 「啓介ー! ただいまー」  鍵を開けて、中に入ると、啓介が迎えに出てくる。 「お帰り」  嬉しそうな超笑顔の啓介に、むぎゅ、と抱き締められて、ちゅーと頬にキスされる。  ……あったかい。 「――――……風呂入ってた?」 「ん。電話切ってからシャワー浴びとった」 「……これ夕飯。置いといて、オレもシャワー浴びてくる」  あんまり顔を直視できずに、買い物したのを渡してバスルームへ逃げようとしたのに。 「雅己?」  腕を掴まれて、止められる。 「どうしたん?」  ああもう、どうしてこうして、すぐ気づいて、人のこと、止めるかな。 「顔見せて?」 「――――……」 「何で帰ってきて、顔も見せないん?」 「……見たろ?」 「目ぇ合わせへんやん。どした?」 「――――……別にどうもしないし……」  まっすぐな瞳と、ばっちり視線を合わせたら。  なんだかさっき思ってた事が浮かんできて、一気に恥ずかしくなった。 「え?」 「っ……ちょっと、オレ……風呂入ってくるから」 「――――……何でそんな顔赤いん?」 「……走って、きたから」 「ふうん?……可愛え顔してどしたん?」  買い物したもの持ったままの手を背中に回して、ぎゅーと抱き締めてくる。くす、と笑って、啓介はちゅ、と唇に、キスした。 「……おかえり、雅己」  なでなで、と頭を撫でられて、啓介を見上げると。 「5限までよお頑張ってきたな」  偉い偉いとまた撫でられて。撫でんな、とその手を払うけれど、またキスされる。 「――――……今日は口にするんだ?」 「朝から元気やし。今も熱ないから治ったと思うから、ええかなーて。  ……嫌?」 「――――……」 「雅……」  啓介の首に手を回して、ぐい、と引き寄せて、唇を合わせた。 「――――……シャワー、浴びてくる」 「――――……何やこれ。 ……こういうのなんていうか知っとる?」 「こういうのって?」 「キスして、消えようとするとか。……こういう放置を生殺しいうんやで。お前いっつも何も考えんと、こんな事ばっかりしてからに……」 「別に……ちょっとキスしただけじゃん。いっつもお前がずっとしてる事じゃん。……も、オレ、シャワー浴びてくるから、離せよ」 「……はいはい……」  ため息とともに、ぱ、と離されて、呆れたような苦笑い。 「用意しとくから。行っといで」 「……ん」    バスルームにやっとたどり着いてシャワーを浴びる。  抱き締められたり、キスされたりが、普通になってる。  あまりに自然な流れで、いってらっしゃいからおかえりまで、というか、おはようからおやすみまでか。 とにかく、全部キスやらハグがついてくる。  ――――……はー。さっき。  なんか。  嬉しそうに出迎えてくれた啓介が、なんか……。  なんというか……。  ……?  ……愛しい? ……というか……。  ……なんなとなくそんな風に、思えてしまって。  抱き締められた時、少し胸が、痛かった。  柄じゃないし、恥ずかしくて無理だから、離れようとしたら、  つかまってしまったけど。  ――――……オレ、啓介と離れるたびに、啓介の存在がでっかい事を、確認させられてる気がする……。ずっと居ると、全然分かんないのに。  まあとにかく――――……熱上がってなくて良かった。 「――――……」  目の前の鏡にうつる体に、まだ残るキスマークが、目立つ。  ………今日は――――……。  ……また、啓介と ――――……すんのかな。    またオレ、訳わかんなくなって――――……。  完全に、啓介の、みたいに、されるのかな……。  ぞく、とした感覚が体を走る。  瞬間、はっと気づいて。ぶんぶん、と首を横に振った。 「……っ」  ……っっ……何考えてんだ、オレ。  ――――……何かオレ………なんか、今日、ヤバいぞ。  今日はなるべくしない方向で、話、進めよう。  疲れて眠いって事で通して、寝かせてもらおう。  なんか、今日は、しない方が絶対、良い気がする。  そんな妙な決意とともに、バスルームを出た。

ともだちにシェアしよう!