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「可愛いって?」

 金曜5限のゼミ。 やっと、今週の全ての授業が終わる。  木金と、啓介が大学を休んで。  案の定、金曜も啓介の事を聞かれまくり。  ――――……最後はもう、風邪で休みーとだけ伝えて終わらせようとした。  まあ、大体そこで終わらず、突っ込まれたけど。  なんか今日は、居ないのが2日目だったせいか、女子にもよく聞かれた。あんまり話した事もない女子にも、話しかけられた。  ……ほんとモテるな、あいつ。  もうこれが終わったら帰るから、聞かれるのもさっきのが、最後だろ。  はー、疲れた。  そんな事を思いながら、近くに居る奴らと話していたら、ゼミの教授が入ってきた。定員10人の少人数制のゼミなので、ざっと皆の顔を見て、出席簿をチェックしながら。 「杉森くんはお休みかな?」  ぴた、とオレの所で視線を止めて、教授がまっすぐ聞いてくる。 「――――……熱があって、一昨日から倒れてます」 「珍しいですね。いつも元気なのに。お大事にと伝えてください」 「……はい」  ――――……つか。教授にまで啓介の事聞かれた。  隣の奴らは、オレがこの2日間、聞かれ過ぎて面倒がってるのを知ってるので、ぷぷ、教授にまで聞かれてる、と静かに笑ってる。  …… オレ、このゼミん時、いつも啓介と座ってたっけ??  そんな事もなかったんだけどな。なんでオレに聞くんだ? お大事にって伝えてって……。  週1のゼミ教授にまで、オレ達公認の仲良しな訳……?  んーーーーー……どんだけなんだろ、マジで。  ゼミはあてられて答えなきゃいけないし、色々考えなきゃいけないのに。  全然身が入らず。でも、終わりまでどうにかこうにか乗り越えた。  5限が終わって、すぐ、皆に別れを告げて、階段を駆け下りる。  スマホを取り出して、啓介に電話。 「あ、もしもし、啓介?」 『雅己? いま終わった?』 「うん。今から帰る。熱は?」 『さっきは36度7分やった』 「嘘ついてねえ?」 『ついてへんよ。あとでくっついたらすぐバレるやんか』 「ならよかった」 『ん。ありがとなあ』  クスクス笑ってる啓介の声を聞きながら、駅までの道を小走り。 「夜何食べたい?」 『んー……弁当とかでもええよ』 「弁当? 普通に食える?」 『もう全然元気やから。まあ昨日も元気やったけど。……ほんま、なんでもええからさ……』 「ん?」 『早よ帰ってこいや』 「――――……っ……」  どき、と、心臓が弾んだ。  小走り、止まってしまう。 「……なにそれ…… 寂しがってんの……?」 『当ったり前やん。もー、めっちゃ長いわ、雅己無しで、ベッドに居んの』 「――――……」 『早う、帰ってきてや』 「……ん。 分かった」  電話を切って、スマホを鞄に入れて。  走り出す。  ――――……やば。  ……なんか今…… ちょっと、可愛いとか、思っちまった。    ……いやいや、可愛くは、ないだろ、あいつ――――……。  だけどなんだか、ドキドキしてしまう。  なんだこれ。  駅について、電車を待つ間、どんどん恥ずかしくなってきて、口元に手の甲を押し当てて、俯く。  目の前に滑り込んできて停車した電車に乗って、窓の外に視線を送る。  なんか――――……わかんないけど。  今日は朝から5限まであったから、ずっと、啓介と離れてて。  いつもいつも側に居る啓介が、昨日今日とも居なくて。しかも今日は、朝から、ずっと長くて。  ――――……少し……オレも、寂しかったのかな……。  ていうかたった半日……。  ……それにしたって、可愛いってなんだ?  だいじょぶか、オレ……。

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