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「アイス」

「せや、過去問もろたんや」 「ん?」 「去年の外国語の過去問。やってみる?」 「んー……うん、やってみる」 「ほしたら下のコンビニでコピーしてくるわ」 「オレも行く?」  そう言うと、立ち上がった啓介が、首を振った。 「ええよ、まっとって。……小銭入れどこやったっけ」 「あ、ごめん。玄関に置いたままだ」 「ん。5分で帰ってくるから待っとって」 「はーい」  啓介の声を聞きながら、うーん、と伸びをする。  疲れたなー。  啓介が居なかったら、オレ、ぜーーーったい、こんなに勉強してない。  やっぱ、こういうとこ、まじめだなー、啓介。  ごろんと、後ろに転がって、はー、と息を吐く。  紅茶でも入れといてやろ。  もそもそと立ち上がって、キッチンへ。  お湯が沸いて、紅茶の葉にお湯を注いだ所で、啓介が帰ってきた。 「雅己―」 「おかえりー」 「アイス食べる?」 「食べる! 今紅茶入れてたんだ。飲むだろ?」 「ん、飲む。おーきに」 「うん」  てことで、急遽、アイスと紅茶タイム。  テーブルに紅茶を持って行くと、啓介がアイスとスプーンを渡してくれた。 「全国チェーンのコーヒーショップが出したコーヒーのアイスやて」 「美味しそう」  わーい、と蓋を開けると、一番上に、ホイップクリーム。 「あれ?? 啓介のは無いの?」 「オレは一口だけもらおうと思うて。全部はいらんし」 「ふーん……」  と返事をしながら。   「なあ、オレ、思ったんだけど」 「何をや?」 「お前と居ると、なんか甘いもん与えられすぎて、太りそう」 「――――……まあ別に、太ってもええけど」 「やだし」  即、答えると、啓介がクックッと笑って。 「別にいっつも甘いモンなんて与えてないやろ?」 「美味しいチョコくれたり、甘いカフェオレ入れてくれるし、アイス買ってきてくれるし。しかもオレのだけ。これはオレだけを太らせて食おうとしてるとしか……」 「何で食うねん」  啓介が笑いながらオレを見つめる。 「でもまあ。言われてみれば……。そしたら、アイスやめとくか?」 「え。やだ。食べる」  オレが慌ててそう言うと、啓介は可笑しそうに笑う。 「なら文句言うなや」 「だって、目の前に置いて食べるなとかひどくない?」 「太るの嫌なんやろ」 「嫌だけど、ここにあったら無理」 「お前、ダイエットには向かなそうやな」  クスクス笑われる。 「どーせ無理ですよー。ていうか、オレはダイエットするなら、運動するし」 「食事制限はせえへんってこと?」 「えー……うん、無理」  ぱく、とアイスを食べると。 「あ、これ、うまーい」  オレがそう言うと、啓介はふ、と笑う。 「一口」 「うん」  スプーンにモリモリに盛って、啓介の口にぱく、と入れてやる。 「どう??」 「ん。ああ、そんな甘くないな。コーヒーの味、ちゃんとする」 「うんうん。もっと食べたい?」 「ええよ、食べな?」  クスクス笑われて、ん?と啓介を見ると。 「そんな幸せそうに食べとる奴から、これ以上取れへんし」  何でそんな笑うんだろ? と思いながら。 「じゃーもう全部食べちゃお」  と言うと、頷いてから、啓介はまだ可笑しそうに笑ってて。  「太らせて、まるごと美味しく食べんのもええかなぁ?」 「――――……なんか啓介が言うと変態っぽくてやだ」 「なんでやねん。お前がさっき言うたんやんか」 「……だから、啓介が言うとだってば」  オレはめちゃめちゃ嫌な顔をしてそう言いつつも、アイスが美味しいので、ほくほく。 「……確かに、雅己って、食べ物でダイエットは出来そうにないタイプやな」 「うん。美味しいもの我慢するとか無理。運動する」 「まあええけど。うまい?」 「うん、めちゃくちゃおいしー」  パクパク食べながら啓介に笑うと。  はいはい、と笑われて。 「また買うてきたるよ」  なんて言われる。 「やっぱり太らせて食べようとしてる?」 「まあ、ええよ。多少肉付きようなっても。触り心地ええんやないの?」  そんな風に言われて。 「――――……オレ明日、走ってくる」  そう言うと、また啓介に、笑われた。        

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