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「ありがと」

「なー……けーすけ……」 「ん?」  やっとキスから解放されて、啓介の腕の中。向かい合う感じで、うとうとしながらぽつぽつ話す時間。いつもこの時は、ものすごく穏やかな気がする。 「テスト終わったし……来週が終わったら夏休みだなー……」 「ん。せやな」 「そうだ、バイト、良さそうなとこあるって言ってたじゃん。どうなった……?」 「あ、せや。決まったんやった。朝メール来とった」 「え。そうなの?」  うとうとしてたのに、急に目が覚めた。啓介の顔を見つめる。 「八月一日から二週間やて」 「採用されたってこと? もう決まりでいーの?」 「そ」 「そうなんだー……ありがとな」 「ん」  くす、と笑って、啓介がオレを撫でてる。 「どんなとこ?」 「江の島の海の家。なんか近くにアパートがあって、そこに住み込みやて」 「わー、楽しそ―……ん? アパートって、家賃とか取られない?」 「大家さんなんかなぁ? とにかく、空いてるとこやから、ただやて」 「へー……」 「休みもあるし、一日最低五時間とかからでええらしいから。まあ最低、やから実際どうなるかはわからんけど――――……あそぼーな?」 「……うん、あそぼ」  ふ、と、笑みが勝手に零れる。  すごく、楽しそうで、嬉しいなと思ってしまう。 「江の島かー……水族館、いこ?」 「ええよ」 「近い?」 「近い」 「やった」  オレが喜んでると、啓介がクスクス笑う。 「水族館、何が好きなん?」 「クラゲ見たいー」 「あぁ。キレイやもんな」 「うん。ペンギンも」 「……ああ」 「何で今黙った?」 「いや。別に。……可愛ぇて思うん?」  何か笑いながら、オレを撫でてる。 「……可愛いだろ」 「ん、せやな」  頷きながらも、笑ってる。 「……イルカショーも見たいなー」 「ん。見よ」  少し顔を上げて、啓介を見上げた。    「海でも遊べるし。二人でアパートとか……なんか楽しみだなー」 「夜の海とか、キレイやろしな」 「うんうん」  わーなんかすっごい楽しみになってきた。  ああでも、どうなんだろ。 「なあな、海の家って、大変なのかな、仕事」 「どうやろ。まあ……八月はピークやな、きっと」 「そうだよなあ……あ、でも」 「ん?」 「でも啓介いるからなー。大丈夫かな」 「――――……」  何となくそう思って言うと、啓介はまた黙って、ふ、と笑う。  ……なんか。啓介が唇と瞳だけで笑う感じ、好きかも。 「じゃあさ、七月はどーする……?」 「バスケの皆と行くのは七月にしよか。学校の皆で遊んでもええよ」 「ん。……楽しみだね、夏休み」  言いながら、ふわふわと欠伸が出てくる。  啓介が笑いながら、オレの頬に触れる。 「眠いん?」 「……ん、ねむい……」  少し目を擦ったら、頬に触れてた啓介の手に触れる。  すると、クスクス笑いながら、手を握られた。 「――――……雅己、手、ぬくい……眠いから?」 「……ん」  クーラーついてて、少し肌寒い。  下着だけ履いて、薄い布団の中で密着してるんだけど。  くっついてる肌が気持ちいい。  ぎゅ、と抱き寄せられる。 「 ――――……けーすけ……」  眠い。  けど。 「んー?……なんや?」  すり、と頭で啓介の顎に触れた。 「――――……ありがと……」 「……何が?」 「いろいろ……」 「……ん」  オレの言葉に、少し笑いを含んだ声で頷いて、より密着した気がする。   「……おやすみー……」 「……ん、おやすみ」  優しい声がして、優しく頭撫でられて。  あっという間に、眠りについていた。

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