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「いつもの朝」

「雅己、起きぃ……?」  深い眠りから、ゆっくりと現実の世界に戻ってくる、気怠い感覚。 「起きれるか?」  優しい声が、耳元で響く。  ゆっくりと瞳を開けると、そこには思った通りの、啓介の笑顔。 「はよ、雅己」 「……うん……」  ――――……だるい。  ぼんやりとしていたオレは、そうっと頬に触れられたその手の暖かさに、もう一度目を閉じた。 「……起きれへんの?」  啓介はクスクス笑って、オレの頬に口付ける。 「……だるぃ……」  昨日、啓介がなかなか離してくれなかったからだ。  ……昨日っていうか、いつもだけど。ちょっとテストで久しぶりだったからか、余計だったような気がする……。  オレが動かないと、また啓介が笑う気配。 「もうすぐ9時んなるし、起きろや? シャワー浴びるやろ?」 「……ん」 「その間に朝作っとくから。コーヒーは淹れたし」  開いたドアから香ってくるコーヒーの香り。  それに、だんだんと意識が覚醒する。 「――――……いー匂い……」  思ったままの事を、目を伏せたまま、ぼんやりと呟くと。  啓介がまたクスッと笑う。 「……ん……?」  啓介はオレの腕を掴んで引き寄せる。  すっぽり抱きしめられてしまった。 「――――……」  ちゅ、と頬にキスされて、「おはよ、雅己」と囁かれる。ん、と答えると、頬にもう一度キスしてくる。   「目、開かんの?」  今度は瞼に、軽いキス。  誘われるように、ゆっくりゆっくり瞳を開いた。 「シャワー浴びてきな? 朝飯作っとく」 「……うん」  啓介がクシャクシャッと髪を撫でて、部屋を出ていった。  ……啓介の優しいのって……ほんと、恥ずかしくなるなあ……。  朝イチから、くすぐったい気分に襲われる。  撫でられて乱れた前髪を一度掻き上げると、思わず苦笑いを浮かべた。 ◇ ◇ ◇ ◇  ざっとシャワーを浴びて、やっとちゃんと目が覚めた。  キッチンで水を飲みながら、啓介の手元のフライパンを覗き込んだら、スクランブルエッグが出来上がる所だった。 「うまそ……」 「もーすぐ焼けるから。パンにバターぬっといて?」 「うん」   トースターからパンを取り出して運び、椅子に腰掛けて、バターを塗る。  のんびりとした動作でバターを塗っていたオレの隣に、啓介が腰掛けた。  ベーコンとスクランブルエッグののった皿を置きながら、オレの手元を見て、クスッと笑う。 「まだやってたん? やったろか?」  クスクス笑って言う啓介にムッとして、オレは一言。 「いい」  なんか、確かに大部分の料理は啓介がやってくれてたりするけど。  バター位、塗れるし。  変にムキになって黙々と続けていると、啓介はまたクスクス笑った。 「……なに?」 「別に?」  啓介の返答の仕方にムッとして、また黙る。  口元を緩ませたままオレの手元を見つめている啓介が気になって、もう一度今度は声を低くした。 「……何で見てんの? もう終わるし」 「んー……」  はっきり言わない啓介にちょっとムッとしながら、オレはバターナイフを置いた。手にちょっと付いたバターを舐めてしまおうと、指を口に近づけた瞬間。手首を掴まれて、え、と啓介を見上げる。 「何?」 「――――……」  啓介は何も答えずに、そのまま、オレの手を引き寄せた。  オレの指を――――……正確には、オレの指に付いたバターを。  舐めた。 「……ッ」  突然の啓介の行為に、呆然とするあまり、声も出ない。

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