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「満喫」

 旅館に入ると、二階の奥の部屋に案内された。  窓から下を見ると 川が静かに流れている。  見渡す限り、大自然って感じ。  ああ、すっごく良いな、癒される感じ。  全員が部屋に入って、荷物を置いたところで、先輩たちが「何する? バスケ? 散策?」と聞いてきた。すると啓介が時計を見ながら言うことに。 「今日の昼、バーベキューで時間早いんです。あと二時間弱位で昼なんで、バスケは午後にして、付近の散策にしません?」  その言葉で、もう散策に決定。 「貴重品だけ持って、外行こうぜー」  皆バラバラと、小さめの鞄に財布を移したり、ポケットに入れたりしながら、靴を履いて部屋を出ていく。 「なー、啓介、見てみて、超綺麗」  窓から外を眺めてたオレが呼ぶと、啓介が、ふ、と笑んで近づいてくる。 「ほんまやなー。あの川、近くまで行けるよな」 「うんうん、行こう、あれやろうよあれ」 「何?」 「石投げてさ、ぽんぽんぽんって、水面に……」  何と言ったらいいか分からなくて、ジェスチャーで話してると、入り口の方から。 「鍵は持ってるかー?」 「あー、オレ持ってるんで閉めて、すぐいきます」  啓介がそう答えると、皆、よろしくーと言って出て行った。 「何個跳ねさせられるかってやつか?」  啓介がクスクス笑いながらそう聞いてくる。 「そうそう、それ。やろー」 「ええよ」 「あ、皆行っちゃった。オレらも行こ」  言いながら、窓を閉めて、障子もしめる。  財布とスマホだけポケットに押し込んだところで、啓介に腕を引かれた。 「――――……」  触れるだけのキスが重なる。 「…………」  思わず、唇が離れると同時に、部屋の入口の方を見てしまう。 「誰も居ないの確認してからしたわ」  啓介は、クスクス笑うけど。 「啓介さー、二泊三日は我慢するから、とか言って、昨日、しつこかったんじゃないの」 「まあせやけど」 「もうキスされましたけど」  キスのところだけ小さくして、そう言うと、啓介は、ふ、と笑った。 「せやかて、チャンスが来るか分からんやんか。触れない覚悟もちゃんとしとったし?」 「何? 今チャンスだった?」 「……せやな、なんか急に二人きりやしな?」 「でも、部屋のドア、鍵掛かってないし。危険じゃん」 「大丈夫やろ。 今、向こうからやと何してるか見えない位置でしたし」  ……さすがというのか何なのか……。 「でも気を付けてね。あ、とにかく皆待たせちゃうから、行こ」 「ん。気を付ける」  クスクス笑う啓介に、ん、と頷く。  靴を履いて、部屋の鍵をかけると、皆の後を追って旅館のフロントへ。鍵を預けて、旅館を出た。皆がばらばらと写真を撮ったりしながら待っていてくれた。 「鍵、フロントに預けたんで、一番先に戻った奴が、トークルームに鍵持ったって、入れといてー」  啓介が言うと、皆、了解ーと笑う。 「何時までに部屋に戻ればいいんだ?」 「十一時半ですね」  じゃあそれまで適当にぶらつこうぜ、と先輩たちが言う。 「川行く人は―? オレ行くよー」  オレがそう言うと、結局皆がまず川から行くことにしたみたいで。  要とオレと啓介が先頭で歩いて、河原に降りる階段を駆け降りてくのを、後からついてくる。  河原に降りると、川の流れる音が間近で聞こえてくる。 「うわー……何か、いいねー。癒される感じ」  そう言うと、要がクスクス笑う。 「雅己はいつも癒されてそうだけどなー? ある? なんか溜まっててどうしようもない、とか、そういう時」 「失礼な。オレだって、色々あるんだからね!」  そう言うと、横で啓介が、ぷ、と吹き出す。 「あるん?」 「……っあるよ!」 「いっつも、のほほんとしとる気ぃするけどなあ?」 「だよなぁ?」  要と啓介が、なんだかとってもニヤニヤしながら言ってる。 「はー、こういうね、誤解がストレスになっちゃうんだよね」  ふー、やれやれ、とため息をつくと、ますます笑われる。 「つか、もういいよ。 オレは、何回水面を跳ねるか選手権をするから!」  平たい石を河原から拾って、人の居ない方に向けて、なるべく水面と並行に投げてみる。  ぽんぽんぽん、と水面が跳ねて――――……。 「四回だった?かな?」 「せやな、四回」 「すげえ、ガキの頃によくやったな、それー」  それからあとから来た皆も加わって、皆で石を投げて遊んだ。    オレ達以外、誰も居なくて、こんなに皆で騒いでても誰の迷惑にもならないし、すっごい楽しい!と、始まったばかりで、満喫してしまう。

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