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「いらぬ心配」

「別にオレ、彼女ほしいのにできないってわけじゃないですからねっ」  むくれて言うと、先輩たちは、ん?と首を傾げた。 「それは何、欲しくないってこと?」 「それとも、実は知られてないところで、彼女が居るとか?」  いや、恋人は普通に欲しかった。  ……まあもともとは彼女が欲しかったけど。  えーと…………彼氏は居る。  相手は、啓介だから、オレらが一緒に暮らしてるのがまずいってことには、ならない。  ……どれから答えたらいいのだろうか。  いや、ちがうちがう、どれも答えたら、総ツッコミを入れられる。  ツッコミを回避しつつ、啓介と一緒に暮らしてるのに問題ないってことを、伝えるには……??  全然わからーん!!  きょろ、と見回して、啓介を探す。  啓介は、手に何かのでっかい皿を持って、一緒に居る奴らと何やら楽しそうに笑いながら、何かをジュージュー焼いてるっぽい。  おいおーい、オレのピンチを察知して、早くこっち来いーと思うのだけれど。全然気づいてくれる余地は無さそう。 「彼女は……いないんですけど……」 「うんうん」 「……でもあの……好きな奴は居るので……」  そう言うと、先輩たちは何やら嬉しそうに笑う。 「お前のそういうの初めて聞いたかも。誰々?」 「ほんと。なかったよな、雅己」 「聞いてもバスケが忙しいんでーとか、わけわかんないこと言ってたし」 「いいじゃないですか、バスケに青春……」  言いかけたけれど、「そういうの良いから、どんな子? そっちが聞きたい」と先輩たちはウキウキしている。 「何でオレのそんなの聞きたいんですか」 「え、だって、雅己に好きな子が居るとか、初耳だから」 「そんなこと、ないですよ、高校ん時だって、ちょっとは仲良くなったりしてたし……」 「でも結局付き合わないで終わってただろ?」 「そう、ですけど……」  むむむ。さすがに良く知られていて、適当にごまかせない。  むむむむむ。 「でも、別に啓介と居たからって、まずいってことは」 「あるって。どーすんの、啓介と仲良くしすぎて彼女出来ないまま行って、啓介だけはできちゃって、やっぱり出てってとか言われたら」 「そうだよ、啓介はそこらへんいくらでもうまくやるだろうしな」 「そうそう、雅己、あんま、啓介とばっかり仲良くしてると……行き遅れちゃうよ?」 「………………っもー」  先輩たち、うるさーい!と言おうとした瞬間、だった。 「オレが雅己追い出すとか、無いんで、変なこと言わんといてもらえません?」  あれっ。  さっきまで向こうに居たのに。  オレの横にきて、いつから聞いてたのか、そんなセリフを口にしてる。 「あ。来た」  先輩たち苦笑い。 「だってお前は高校ん時も彼女居ただろ?」 「雅己は、なんかお前と仲良くしすぎてると、彼女出来ないじゃん。かわいそうじゃない?」 「……別に。オレと居ても、彼女作りたいなら作ればええし」  むむ。何ですと?  じっと啓介を見上げると。啓介はオレの視線に気づいて、ぷ、と笑った。 「オレがやーっと口説き落として、一緒に暮らしてもらったとこなんで」 「――――……」 「おかしなこと言うて、惑わさんでほしいんですけど」  啓介がそんな風にきっぱり言い切ると、先輩たちはびっくりした感じで。 「ええ、そうなの?」 「雅己が啓介と居たいって言ったんじゃねえの?」  ……何その驚き方。  先輩たちの中では、オレが啓介と居たいってごねて、一緒に暮らしてもらったと思ってるわけ??  どういうこと……。 「ちゃいますよ。むしろオレがずっと誘ってたんで」  そーだそーだー!  もっと言えー!  啓介の横で、むーと膨らんでいると、先輩たちがクスクス笑い出す。 「じゃあ、雅己が追い出されるって心配は……」 「無いですよ」  啓介が笑いながら、はっきり答えると、先輩たちは、なんだそっか、心配して損した、とか笑ってる。  ………………どんな心配だ。  むかむかむか。

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