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「好きな人に」

 しばらく河原で過ごした後、さっき、射的やソフトクリームがあったところに行こう、という話になった。いいよ、行こ、と皆ゆっくり歩き始める。 「あ、オレ、財布ないんだった」 「ええよ、欲しいもんあったら言えや」 「うん、ありがと。あとで返す」 「はいはい」  啓介とそんな会話をしながら、ふと振り返ると、要がすこし後ろに居て、星を眺めていた。 「……ちょっと要んとこ行ってくる」 「ん」  啓介も要を見て、それから、先いってる、みたいに前を指さした。  うん、と頷いて、要のところに向かう。 「かなめー」 「ああ。雅己」 「……星、綺麗だなー?」 「ん。ああ。すげー綺麗だよな」 「うん」  ほんと。こんなに星があるのに、都会は見えないってもったいいないなあと思う。超綺麗。  オレ達が少し黙ってると、水の流れる音がするだけで、辺りはすごく静かだ。  ……要と静かでも、何にも気まずくないからいいのだけど。 「なあ、雅己さぁ」 「ん」 「彼女は居ないって言ってたよな」 「ん」  彼女ではないからな。うん。ちょっと、ここが、どう答えていいかわからなくなるポイントだけど、まあでも今は仕方ない。 「じゃあさ、好きな子はいる?」 「ん。居るよ」 「そっか。どんな子?」 「優しい、かな。一緒に居て、楽しい」  そう言うと、要はクスクス笑った。 「いいね、一緒に居て楽しい、が一番いいよな」 「うん。……要も居るの?」 「気になる子がいる」 「そっかー。同じ大学の子?」 「バイト先が一緒にの子」 「へー。いいね」 「でも彼氏が居るんだよね」 「あー……そうなんだ」  なるほど。……それでなんかちょっと、考えてる風だったのかぁ。  珍しい要の雰囲気に納得。 「そ。だから、動けないなーって」 「そっかぁ……」  うーん、と考えながら。 「あ、ごめんな、どうしようもないこと話してる気がする」 「え、全然。どうしようもないから、余計話した方が楽じゃない? オレはそうだけど」 「……まあ、そうだな。ありがと」  要がちょっと嬉しそうに笑うので、オレも何だか少しほっとする。 「うん。ていうか、要のそういう話、あんまり聞かないし」 「ああ、そうかもね」 「うん」  ふ、と笑い合ってから、また空を見上げて、少し黙る。   「なんかこんな星が綺麗だと、ちょっと、感傷的になるのかも」 「……なんとなく、分かる」  言いながら、星を見つめる。  ふと、思いついたことを、言おうか迷いながら。 「なー要」 「ん?」 「……オレの、話だから、要には、はまらないかもなんだけど……」 「うん。何? 聞きたい」 「……んー。オレが好きな人。前は色んな人と付き合っててさ」 「うん」 「でも、今は他の人とは付き合ってなくて……」  ……はっ。オレと付き合ってくれてるとか、言っちゃいそうになってるぞ、オレ。いやいや、付き合ってないことにしてるんだから、えーと。 「……オレと、向かい合ってくれてる、というか……あの……」 「ああ、そうなの? うまくいきそうなんだ?」 「……んー。うん、そんなかんじ……」 「そっか」  うまく受けとってくれて、ありがとう……と変なことに感謝しつつ。 「だから、何ていうか……今付き合ってる人が居るからって、別に、諦めなくてもいいんじゃないかなーと……。人の付き合いとか、どうなるかなんて分かんないし。……要、良い奴だし、その子に優しく接してたら、その子がふとした時、要のこと、いいなって思うかもだし」 「――――……」 「別れるのを望むとかじゃなくてさ……自分が好きだっていうのは大事にして、それで動いてれば、いいのかなぁって、ちょっと思った」  言い終えても、要がオレを見たまま、何も言わないので。 「あ、ごめん。変なこと言った? あ、オレも、好きな人に付き合ってる人が居るっていうのはやだと思うよ? 思うんだけど、って話だからね?」  ちょっと焦ると、要は、クスクス笑った。

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