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「いつか」

「夜、雰囲気違うなー?」  皆でゆっくり河原を進む。  暗くて、足元も見にくいので、なんとなくゆっくりになってるんだけど。 「すごい静か」  水の流れる音だけが聞こえて、風が吹くと、涼しい。 「見てみて、上」  ふと見上げた夜空は、星がたくさん。  あんまり見た記憶がない位の星空に、皆に一言告げたまま、ぼーと見つめる。  すっげー綺麗。  なんかこれだけでも、来て良かったかも……。  あの三角ってなんて星座だっけー。夏のなんとか……。  全然覚えてないなー、何か習った気がするんだけど。  まいっか。とにかく、綺麗。 「首、おかしくしそうやな」  隣で、石を踏む音がして、啓介の笑いを含んだ声。 「うん。……めちゃくちゃ綺麗だよなー」 「せやな」 「……これでさぁ、いつもの街はさ、いつも通り、明かりがぴかぴかしてるのかと思うと、すげー不思議だよな?」 「せやなー……」 「向こうも星がもっと見えたらいいのにな?」 「ん。せやな」 「そしたらいっつも夜空、見るのになー?」 「せやな」 「つか、せやな、ばっかり」  クスクス笑いながら啓介を見ると、啓介も星空からオレに視線を戻した。 「せやかて、おんなじ風に思うから。そうなっただけやし」 「……まあそうなんだろうけど」  ぷ、と笑ってると。  前で同じように星を見ていた要が、振り返って、笑う。 「お前らの会話ってさー」 「ん?」 「なんていうか……夫婦みたいんなってきた?」  クスクス笑われて、啓介と顔を見合わせる。 「そう? どこが?」 「んー。分かんないならいいけど」  なんか追及する気もしないし、啓介の顔を見たら、にこ、と笑って何も言わないので、もうそれでいっか、と思ったら。要がもう一度オレ達を振り返った。 「んー、なんかさ、ずっと一緒に居るのが前提みたいな感じってこと」 「ん?」 「夜空見るのになーとかさ。まあ一緒に暮らしてるからそうなんだろうけどさ」 「うん。……そだね」  確かに。普通に、啓介は一緒に見る前提で話してた。 「まあ、オレら夜一緒やからな。自然とそうなるな」  啓介が、ほんとに普通のことみたいに、言って、だよな、と要が応えてる。  世には、多分友達同士で一緒に住む人たちだって、居るだろうから、別に変なことではない。  オレ達が仲がいいのは、皆知ってるし。  なんなら、オレが押しかけてて。啓介に彼女出来たら追い出される、とか、先輩達、あれきっとマジで心配してたみたいだし。  ……だから、多分、誰も、オレ達の仲を疑ってるとかは、無い。  要は今、夫婦みたいとか言ったけど、多分それも言っただけ。  オレ達が付き合ってると思ってる奴は、今のとこ居ないと思う。 「今度遊びに行って良い?」 「あぁ、えーよ。な?」 「うん。もちろん。酒盛りしよ酒盛り!」 「おーいいな」  要との話を聞きつけた皆も、飲めるようになったら飲み会しような、みたいな話になって、静かな河原に、オレ達の声だけが、すごく響く。  いつか。  ……要とか。ほんとに仲良い奴だけでもいいから。  ほんとのこと言えるようになったらいいなあ。  その時。啓介のこと、ほんと好きだからって、言えるようになってたらいいな。  楽しく騒いでる皆に、笑いながら。  啓介と目が合うと。ふ、と笑んでくれる。  皆と居る時、一瞬だけ、笑ってくれるの。  ちょっと……というか、かなり嬉しいということに、ここに来て気づいた。  思うと、ずっと前から。そうだったかも。  啓介とはよく目が合って、そうすると笑ってくれて、オレも笑い返して。  そんなのを、ずっとやってきてた気がする。  ――――……今でも、ほんとに好きだからって、言えるかもだけど。  もうちょっと長く暮らして、オレ達大丈夫、て、もっと思えたら。  いつかちゃんと、話せるかな。  なんて。  綺麗な星空見上げながら。  ちょっと思った。    

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