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「ずっと一緒」

「鯉、こっわ!」  餌を投げ入れると、もう何匹かわからない位の鯉が、めちゃくちゃ口を水面に出して、エサを取り合ってる。  思わず出た言葉に、啓介が後ろで笑った。 「雅己、落ちたら食われるんやない?」 「怖いこと言うなよー。マジで食われそう……」  若干ビクビクしながら餌をあげる。  ひどいのなんて、他の鯉の上に乗り上げてまで上に来ようとしてるし。 「その内とびかかってくるとかないかな……」 「ピラニアやないんやから……」 「ピラニアってそうなの?」 「なんか飛んで獲物にくいつくの見たことあらへん?」 「それホラー映画じゃない?」 「……そんなやったかも」  クスクス笑って話しつつ、最後のエサを、ぽーんと遠くの鯉たちに投げた。 「何で遠く投げたん?」 「え。あー、なんかあそこらへんの鯉たち、この戦いに入ってなかったから」 「可哀想て?」 「うーん? いや、なんとなくあげようかなって」  そう言うと、啓介は、ははっと笑う。 「なんとなく、な」  繰り返されて、何?と聞くと。 「いや。……そういうなんとなく、な雅己がオレは、なんとなく可愛くて、なんとなく好きなんかもなーと。なんとなく思うただけ」 「なんこ、なんとなくって言うんだよ」  苦笑い。  なんとなく好きって。……なんか、まあ、ちょっと嬉しいけど。 「ありがと、えさ」 「おう」 「面白かった。鯉がすごすぎて」 「オレは、叫んでる雅己がおもろかったから、よかった」 「何それ」  あはは、と笑ってると、皆が、もう川の方に行くー?と聞いてきた。 「いーよー、いこー」  オレが返して、啓介と一緒に歩き始める。  ふと目が合って、微笑む啓介に、「楽しいな?」と言葉が勝手に零れる。 「啓介と二人もいーけど、皆がいるのも、いいよな」 「せやな」 「啓介は高一から大学までずっと一緒だからさぁ。この先も、ずっと仲間もかぶるよな?」 「せやな」 「就職はさすがに別だろうけど」 「どうやろな?」 「え。一緒の可能性あんの?」 「別に、でかい企業ならあるんやないの」  クスクス笑う啓介は、多分、本気では言ってないけど。 「同じとこに勤めるとかも楽しいな」  そんな風に可笑しそうに笑う。 「そうなったらすっごいな?」 「さすがに嫌って言うんやないの?」 「別に嫌ではないかなあ。やりたいことが一緒で、そこがいい会社なら、一緒もありかもって、今思ったけど」 「……ふうん」  啓介は、オレをじっと見つめていたけれど、クスクス笑う。 「でもそしたら、ほんっとにずっと一緒だけどな?」  ふ、と笑ったオレの頭を、啓介がポンポン、とたたく。 「ほんま、かわえーな、お前」  なんかすごく愛おしそうに見つめられてしまい、なんかすごく照れる。 「……撫でンなってば。皆見えるし」 「だから、撫でないで、ポンポンにしたやろ」 「一緒じゃん」  笑いながらツッコんでおいて、あ、と気づく。 「だからさ、ずっと友達かぶるからさ、何の集まりでも、ずっと一緒だよな?」 「せやな。高三の時のクラスも一緒やから、同窓会も一緒やろうしな。小中学校は別やけど」 「そこってそんなに集まらない気がしない?」 「そやな」 「だからさぁ、何か集まろうってなったら、いつも一緒だなーと思ってさあ」 「うん?」 「なんか、オレの人生、ずっと楽しそう、とか今、思った」 「――――……」  啓介は、ふ、とオレをまっすぐ見つめて。  それから、また、クスクス笑う。 「せやな。まあ、これって、別れたら悲惨やろな?」 「確かに。……うわー、やだな、別れてんのに、ずーっと集まり一緒……」 「……まあ。別れんから。楽しいやろ。ずっと」  その言葉に啓介を見上げると、ん?と微笑まれて。  嬉しくなって、うん、と頷く。 「でも就職、一緒もありって言うとか、思わなかった」 「オレかて、今言うただけやけど」 「そーだよね」  あはは、と笑いながら。でも別にありかも、なんて、ちょっと本気で思ってるのは内緒で。  少し前を歩いてる皆に追いつこうと、少し早く歩き出した。

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