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「勝てない」

 買ったお土産を部屋に置きに戻って、自分の荷物の上に置く。  皆もそれぞれ、荷物を整理したり、もう敷いてあった布団に、「ここオレでいい?」とか言いながら、転がってたりしてる。 「布団の場所決めた方がええかな」  啓介がそう言うと、なんとなく体育会系の名残りで、先輩達から決めていく。オレは、窓際の荷物のところにいたら、啓介が、雅己はそこ?と聞いてきた。 「オレ、どこでもいいけど……」  そう言うと、寝相悪いから、そこでええやん、と笑う。  むむ、オレ別に寝相悪くないけど、と思ったら。 「ほしたら隣はオレが転がってくの防いでやるか。しゃあないな」  とか言って。  ……まんまと、不自然なく、隣に来た。 「雅己、こっちまで転がってくんなよー」  啓介の隣に居た先輩が笑いながら言ってくる。 「そんなとこまで行かないですよー」  苦笑いで答えると、ほんとかー?とか笑われる。  ……すっかり寝相悪いキャラにされてしまったけど。  多分、それは、啓介がオレを囲ったんだと理解。  立ったままの啓介を、ちろ、と見上げると、啓介はオレに向けてだけ、ニヤ、と笑ってる。  まあ分かってたけど、ああやっぱり、と思う。こういうとこ。ウマいよなー。なんか感心してしまう。  他の部活との練習場所の取り合いとか。  なんかそういうの、啓介に行かせとけば大体うまくいくって、皆言ってたっけ。うん。勝てる気はしない。 「雅己、散歩行く?」 「あ、中庭?」 「河原も星が見えて綺麗やて言うてたで」 「あ、行く行く行きたい」  立ち上がりながら言うと、啓介がふ、と笑う。 「皆も行く?」  オレの言葉に、先輩たちは全員休むって答えたけど、行くーと立ち上がる奴らも。隣の部屋に居た女子達は、皆出てきた。食べすぎたから散歩したいーとか言ってる。  結局十人位で部屋を出た。廊下を進んで、中庭に出ると、樹々が適度な光でライトアップされてて、すごく綺麗。 「わー、鯉が居るー」  鯉の居る池の周辺も綺麗になってて、なんかすごくイイなーとしゃがんで覗き込んでいると。 「落ちんなや?」  啓介が後ろから笑いながら声をかけてくる。 「押さないでよね?」 「押さなくても、なんかお前、落ちる気がして……」  苦笑いをしながら、啓介がオレの肩を掴んで押さえている。 「え、オレ、そんなアホだと思ってる?」 「んー……どうやろ。まあ……とりあえず立っとけや」  腕を引かれて、立ち上がらせてくれるのだけれど、なんだか納得いかなくて口をとがらせる。 「絶対落ちると思ってるだろ」 「そんなことはないけどな?」  クスクス笑う啓介を、むむーー、と睨んでると。 「雅己、こっちに金魚もいるぞー。鯉と金魚の餌売ってる」  なんて、声がかかる。 「それ子供がやるんじゃねえのー?」 「お前には似合うから、やれば」 「どういう意味だよー」  言いながら、声の方に向かう。後ろで啓介がクスクス笑ってる。 「餌、買うたろか?」 「え。いいの?」 「財布持ってきてないやろ」 「うん。置いてきちゃった」 「やりたそうやもんな。えーよ」 「ありがと」  ちょっとやりたかった。と思いながら、啓介を振り返ると。  啓介は、ぷ、と笑う。 「ほんま、お前は」 「ん?」 「なんでも楽しそうで。感心するわ」 「んー……そう??」  うーん、と考えてから。 「そういうとこが、好き? とか?」  くす、と笑いながら、完全冗談で、こっそりと言ったら。 「ああ、せやな」  と笑まれて、かなり恥ずかしい。

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