206 / 244

「いつか」

「めちゃくちゃ食ったー」 「でしょうね」 「どこに入るんですか、雅己先輩のそのお腹のどこに」 「……なんか今ぽっこりしてるかも」  浴衣の上から、お腹をすりすり触りながら言うと、周りの皆に笑われる。 「あれだけ食べればね、て感じですけど」 「先輩何で太らないんですか?」 「……何でだろ?」  あはは、と笑ってると、他のテーブルの皆もどうやら食べ終わったみたいで、「そろそろ戻るー?」と言い出してる。  皆とテーブルから立ち上がって、バイキングの会場を出て、廊下を進んでいると、前方に啓介。女子マネ二人に囲まれてる。  まあ別に。気にしない。と念じる。  そりゃ多少は、ん、と思わなくはないんだけど。  ……啓介を疑うとか、嫉妬するとか。そういうのは、こういうとこでしたくない。せっかく、すごく楽しいし。  啓介が、オレのこと、好きだって思ってくれてるのは、分かってる。  いつも、十分なくらい、伝えてくれてると思うし。  あんなに分かりやすくいつも言ってくれてるのに、ちょっと離れた位で、気持ちを疑うようなのは、全然ない。 「お土産見る人いるー?」 「あ、見る見るー」  通りかかった、フロントの近くのお土産屋さんに寄る。 「どうしようかなーたまには実家に何か買っていこっかな」 「いいんじゃない? あんま帰ってないの?」  要に聞かれて、うん、と頷いて、考える。  そういえば、一人暮らし始めて、啓介のとこに入り浸りで。そのまま引っ越して……全然帰ってないぞー。引っ越し関連も電話で済ませちゃったし。 「あー全然帰ってないかも。ヤバい。買って帰ることにする」 「それが良さそうだな」  クスクス笑われる。  うちの両親はまあ、いい意味で、放任というか。過保護では絶対無い。  自由、というか。まあオレはそれが楽ちんで良かったけど。  一人息子のオレが、啓介とそうなったって言ったら、どうするのかなぁ。  ――――……反対するかな。どうだろ。  反対されたら、オレ、どうするかな。  んー。  ……お菓子を見ながら、数秒。  ……啓介ならオッケイって言われそうな気もするけど。  でも、付き合ってることは言わないっていう選択肢もありかな。  むやみに全部話して、悲しませるならやめた方がいいような気もする。  その内、結婚しないのーとかは言われるかもだけど。  多分結婚しないっていう選択を、絶対だめとは言わないだろうし。  ……啓介はどうするんだろ。  やっぱりそういうところだけは、男と女のカップルより、色々、考えなきゃいけないことが、多いよなぁ。  ……んー。  まあそれでも……。 「雅己」  あ。啓介。  隣に立って、オレが見てるお菓子に視線を向ける。 「自分の?」  クスクス笑われて、ふ、と笑ってしまう。 「違う、実家。しばらく帰ってないから」 「ああ。せやな」 「旅行終わったら、一回実家帰ってくるね」 「ん。オレこないだ法事で家族は会うたからなぁ。どないしよかな」 「んー。でも、おみやげ持って一緒に地元行く?」 「せやな。それでもええよ」  笑いながら頷く啓介に、じゃそーしよ、とオレも笑う。  ……男と女に比べたら、考えること、多いけど。  啓介との関係。……続けたいからなぁ。 「オレも雅己んち、行こうかな」 「ん?」 「一緒に暮らすし、挨拶がてら」 「あ、そう? 来る?」 「……せやけどちょぉ、緊張するなぁ」 「何で?」  首をかしげて聞くと、啓介は、周りを見てから、こそ、と囁いてくる。 「……息子さんをください的なやつ。……せえへんでも、緊張するかも」 「え。……啓介、それしたい?」 「どうやろ。……いいタイミングがあれば。してもええかな」 「……そっか」  ふうん、と頷く。  そうだね。いいタイミングで。  悲しませないで、納得してもらえるような時に。 「まあ……いつか考えようね」  そう言うと、啓介は、オレを見つめて、何やらめちゃくちゃ優しく微笑む。    

ともだちにシェアしよう!