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「旅の終わり」
◇ ◇ ◇ ◇
荷物を下ろし終えて、皆で丸くなった。
「ほしたら、先輩、一言お願いします」
啓介が、隣に立ってた先輩に視線を流して、話を振る。啓介の前にキャプテンだった先輩は、「いきなり?」と笑ってる。
「まあ、今回オレらは何もしてないからなぁ――啓介も雅己も、ありがとな」
そう言うと、皆も「ありがとー」みたいに言ってきて、拍手されたりしてる。でも、オレは少し手伝ったくらいで、ほぼ啓介だけどなぁと思いながらも、啓介がオレを見て笑ってるから、まあいいかと思う。
「卒業してもこんな風に遊べるのは楽しいよな。今回は来れなかった奴らも来たがってたし。また集まろう。今度はオレらも幹事やるし。啓介に任せっぱなしじゃ悪いし」
「いや、別にオレは、こういうの好きやから全然」
啓介がけろっとして言うと、「あ、そう?」と先輩が言って、皆が笑ってる。そのまま先輩の挨拶が終わると、「じゃあ解散。お疲れさんでした!」と啓介が言うと、皆が「お疲れさまでしたー」と口々に言う。
皆それぞれ乗る電車や帰る方向が違うので、適当に礼や別れを言いながら、離れていく。何となく啓介とオレと、あと何人かで皆を見送りながら、最後に駅に向かって歩き出した。
たまたま、啓介を真ん中に、要とオレと三人で並んで歩き出したところで、ふと気付く。
……あ。さっき、要に言っちゃったんだよなぁ。
そのこと、まだ啓介には言ってない。まあでも。要が変な風にはしないとは信じてるから平気だけど。
楽しかったよな、なんて啓介と要が話しているのを聞きながら、そういえば啓介には何の相談もなく言っちゃった。なんて思って。
でもまあきっと、啓介はいいって言ってくれると思うし。
……思えば、オレって、なんか、啓介のことも要のことも、すっげー信じてるかも。啓介は別に付き合ったからってわけじゃ無くて。友達の時からだし。要のことも。
そんな風に思える二人が、昔から側に居てくれて……うんうん。
オレは結構幸せかもしれない。
……まあ、啓介と、そういう意味で一緒に居るっていうのは、想定外のことだったけど。冷静に考えると、まだ不思議な気はするんだけど。
駅に近づいて、もうすぐ要とは別れる、というところで、要が言った。
「近々、飲もうよ」
「おう。ええよ。いつ?」
「いつでも。また連絡する」
「ああ。……って、二人?」
「いや、雅己と三人」
要と啓介がそんな風にポンポンと会話していって、要の言葉に啓介がちょっと止まってから。
「三人って珍しいな?」
「まあ、そうかもね――まあでも、お祝いしたいから」
「お祝い?」
一瞬首を傾げた啓介は、すぐに、ぱっとオレを見た。ばち、と目があって――何も言わなかったのに。いや、言えなかったのに。
啓介は、ふ、と面白そうに微笑んだ。
「分かった。予定あわせよ。ただ夏休みの間、海の家でバイトしてくるから、そのあとな?」
「えっ海の家? あー、泊まり込み?」
「そ」
「いってらっしゃい」
要がクスクス笑う。
「帰ったらすぐ連絡する」
啓介が言うと、要は、ん、と頷いた。
要や、一緒に歩いてた皆と、それぞれの電車に別れていく。
またなー、と最後の一人と別れて、ふ、と息をついた。
「終わっちゃったね」
「せやな……寂し?」
寂しい……寂しい気は、するんだけど。
めっちゃ楽しかったし。もう満足。それに。
啓介が一緒に家に帰るってのが、やっぱり大きいかも。
「んー……そうだね。少し寂しいけど、楽しかったから。ほんと、お疲れさま、啓介」
「おう。雅己もな」
「オレより断然、啓介だけど。めっちゃ楽しかった。ありがと」
ふふ、と笑いながら返す。
そんなオレを見つめて、啓介は「楽しかったならよかった」と頷いた。
「とりあえず電車乗って、家の方いこ。夕飯、どないする? 食べてく? なんか買うてく?」
「食べていこ」
即答すると、啓介は、ん、と笑った。
ちょうど帰宅時間で、少し混んでる電車。旅行の荷物、ちょっと邪魔だなぁと思いながらも、なんとか住む町に帰ってきた。電車を降りて、ほっとしながら、ホームを歩く。
「雅己、何食べたい?」
「何でもいいから……早く食べて、帰ろ?」
そう言うと、啓介は「疲れた?」と聞いてくる。
ん、と頷くと。
「ラーメンとかにする?」
「うん。そーしよ」
帰り道にあるラーメン屋に寄って、カウンターに腰かけた。
注文してから、水を一口飲んでから、啓介がオレを見つめる。
「雅己、もしかして、なんやけど……」
「あ。ごめん。要に話しちゃった」
そのことかなと思って先に言ったら、「やっぱそうなんや」と啓介が笑った。
(2025/6/13)
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