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慰み R18

 ベッドで身を捩りながら左手で飴玉を握り締める。  電気の着いていない薄暗い部屋。  時刻は午後6時を回っている。  窓の外は既に真っ暗で部屋の光源は恋愛もののドラマが映っているテレビしかなかった。 「んぁっ……はっ……はっ……喜っ」  寂しい……寂しいよ…………。  蔵 悠人は次から次へと身体の内側から発生する熱と快楽と闘っていた。  これも早五日目。  下半身に埋まり、駆動音を鳴らす快楽の発生源。バイブの存在に身を捩る。それは随分と太いはずなのに普段、排泄の役割しか果たしていないはずの器官にすっぽりと収まり不規則に振動していた。  これも男のオメガ特有の体質なのだ。 「もっ……やっ……たすけてっ……んあっっ……」  この世には男女の性別の他にアルファ、ベータ、オメガという三つの性別が存在する。悠人はその中でも最も人口が少ない男のオメガだった。  オメガには三ヶ月に一度、一週間ほどの発情期というものがくる。その期間はまるで獣のようにセックスのことしか考えられなくなり、アルファを自分の身体からフェロモンを出して誘う。  発情期中、セックスをしながらアルファ性の人に項を噛んでもらうことで番というものになることが出来る。番になるとオメガのフェロモンは番のアルファにしか効果がなくなり、そのオメガの身体は他のアルファを受け付けなくなる。  悠人もそんな番のいるオメガの一人だ。  一般的にアルファは番のオメガが発情期中、一緒に過ごす。  しかし悠人の番は彼の傍には居なかった。  額からボタボタと滴り落ちる汗。  一糸まとわぬ姿で四つん這いになりながらただ一人の男の名前を呼ぶ。 「……んぁっ……喜っ……んあっ……」  あまりの興奮状態に悠人は自分自身が何を言っているのか分かってはいなかった。しかし、ただひたすらに一人の男の名前を呼んで、ただひたすらに一人の男の身体を求め続ける。  身体に触れられた時の熱、絡めた指先、彼の息遣い。全てを思い出して身体を快楽の海に投げ打つ。 「……んっ、はっ……ひっぁぁあああっ!」  身体が酷く痙攣する。一際、左手に握り締めた飴玉からクシャクシャと包装用紙が擦れる音がする。    バイブの振動を停止した。  今日は発情期五日目だ。平均一週間続く発情期も今日できつい時期は終わりだ。興奮も少しづつ落ち着いてきたところで四つん這いの体勢からベッドに倒れ込む。  下半身を見ればまたペニスが硬度を持ち始めていた。  手に持っていた飴玉を口に含む。  子供が好むようなパッケージに入っていて舐めると色が変わるのだ。番である栗神 興李に前回の発情期が終わったあと床にぶちまけられた思い出のある品だ。 「もう僕の顔は見たくない、か………」  前回の発情期が終わった後、悠人は興李と一緒に住んでいた家を追い出された。悠人には理由がよく分からなかった。  ただ興李は最後こう言っていた。 『お前今でも俺のこと好きじゃねぇんだろ?じゃあなんで番になることを了承したんだよ。もう顔も見たくねぇよ!』  傷ついた顔をしていた。  それを見たら何も言えなかった。悠人はそのままタクシーに乗せられ興李の持っていた物件の一つに引越しさせられた。  つまり、見限られたのだ。  手が震えた。  アルファはオメガなど居なくともなんの差支えもないが、オメガにはアルファが必要だった。  特に番を持つオメガは三ヶ月に一度発情期が来るというのに番のアルファとの性行為しか体が受け付けない。しかもアルファとは反対に頭も悪く、運動神経もないオメガには自分一人で生きていく能力がない。  番のいないオメガには身体を売って生活をする人が多いのはそのためだ。  僕はまだいい。  まだ興李が生活費をくれるから。 「でも……これからどうしよう……」  いつまでお金が届くか分からない。  興李が僕のことなんか忘れてしまってどうでもよくなってしまったら……。  僕の人生はきっとそこでおしまいだ。  それに興李を傷つけた。  興李のあの顔が忘れられない。  僕、何か言っちゃったのかな……。  発情期の二日目から五日目は熱と興奮と快楽で記憶が飛ぶことが多い。だから何かやらかしていても悠人には分からなかった。  ふと着けていたドラマの台詞が耳を突いた。 『君が他のやつのことを好きでも振り向かせてみせるから!僕と、付き合ってくれないかな?』 『僕なんの取り柄もないオメガだよ?それでもいいの?』 『言いも何も僕がお願いしてるんだけど?』 『うん……じゃあ、よろしくお願いします』 『いいの?』 『うん』  幸せそうなフィクションに心が抉られる。 「興李……興李……どうして捨てたの?」  画面に向かって縋り泣く。悠人の瞳は画面に映る俳優を捉えていた。  名前は栗神 喜。  興李と瓜二つで双子の兄だった。  実は人よりも顔の良い悠人はまだ自分の第二の性もわかっていなかった頃、子役をやっていた。その頃喜とは会ったことがある。初恋の人だった。  僕は喜に興李を重ね合わせた。   「興李、僕は興李のことが好きだよ?……だから……好き、だから……助……けて……」  悠人は朝からぶっ通しの自慰行為に疲労感を覚え、そのまま意識を手放した。

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