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告白

「好きだ」 「は……?」 「蔵くん、君が好きだ」  意味がわからない。今、そんな雰囲気だったか?いや雰囲気とかそれ以前に栗神 喜は俺の事が眼中にも無い人間だったはずだ。  いや正確に言えば、眼中にもなくなったかな。  昔、本当に小さい頃の話だが僕と喜は仲が良かった時期があった。一緒のドラマに出演して緊張してる喜に僕が飴玉を上げたのがきっかけだった。でもそのドラマの撮影が終わって久しぶりに喜に会う機会が訪れた時、喜は僕のことを忘れていた。 「意味わかんないよ!なんで喜が僕のこと好きなんて話になるわけ?」 「なんでってそれは子役時代君に惹かれて……」 「お前誰?」 「え……?」 「喜は僕にお前誰?って言ったよね?好きな奴に普通そんな事言わないよ」 「いや、それは………」 「嫌だもう聞きたくない!今更そんなこと言われたって僕は受け入れられない。もう遅いんだよ!出てって!」  悠人は寝室に駆け込んで再び毛布にくるまった。興李の匂いを嗅いで落ち着こうとする。 「今更遅いってどういうこと?」  喜は嫌がる悠人なんて構わずにズカズカと寝室に扉も閉めずに入ってくる。 「まさか蔵くんはオメガなの?」  言葉の柔らかさとは裏腹の流石アルファしか言いようがないくらいの怪力でくるまっていた毛布をはぎ取られる。そして喜は項の噛み跡を見た。  見られてしまったのなら仕方がない。 「僕は興李の番だ。だから喜の想いには答えられない」 「そっか……でも、それでも、好きだよ」  項を見るために喜は悠人の後ろに居た。そのまま彼は悠人を背中から抱きしめた。  暖かい久しぶりの人の温もりに安心した。このまま喜に溺れてしまいたいほどに。 「ねぇ、上手くいってないんでしょ?一回俺のところに来てみたら?……なんて」「嫌だ!やめて!これ以上興李に失望されたらあの家さえ追い出されちゃう。嫌だ、捨てないで、ごめんなさい、興李」  喜の言葉は悪魔の囁きのように甘やかで、油断すれば頷いてしまいそうだった。だから僕は必死でその誘惑を振り払う。   「あの家さえ?……まるで一度捨てられてるみたいなことを言うね。そんなに不安なら本当に俺のところに来ちゃいなよ。俺だったら君のこと捨てないよ」 「だめ、だめなの、興李じゃなきゃだめなの。捨てられても家を追い出されても喜のことが好きだから、興李じゃないとダメなの」 「ちょ、ちょっと待って。なんで俺のことが好きで興李じゃないとダメなの?……いや、言い間違えか、ごめん」  悠人は喜の声など聞こえていないかのように彼の言葉に被せて話す。 「抱いてくれなくても他に番を作ってもいいから僕のこと傍において?喜が好きなの。だから、僕のこと捨てないで」  悠人は身体を反転させ、喜に抱きついた。 「え、えっと……これは告白の返事、OKってことでいいのかな?」 「喜っ、喜っ、好き」 「俺も悠人が好きだよ」  喜は困惑しながらも悠人を抱き締め返してベッドに二人で横になった。  その時。 「おい!どういうことだよ!なんで俺の部屋で兄貴と悠人が抱き合って寝てんだよ!……は?意味わかんねぇ。当て付けか?俺がお前らの邪魔をしたって言いたいのかよ!俺が興李と番になったのは同意の上だ。」 「興李、落ち着け。お前の隣の子が怖がってるよ」 「落ち着けるかァ!こんなオメガなんてどうでもいいんだよ!落ち着いて欲しいならまずはお前らが抱き合うのをやめろ!」  喜は窘めようとするが興李はそれを意に返さない。「ひ、酷い……」と呟くオメガの子に喜は声をかけ、帰らせる。 「分かった、分かったから、落ち着いてくれ。悠人、君も現実に戻っておいで」  悠人はギュッと振りほどかれないように強く喜を抱きしめていた。喜に肩を叩かれて彼の顔を見た。喜が寝室の扉の方を指指すのでそちらの方を向けば口から素っ頓狂な声が出た。 「え……?興李?あれ?なんで興李が二人……?ってなんで僕喜さんに抱きついて!?」 「白々しいんだよ!俺を完全に諦めさせようと見せつけにやってきたんだろ?分かってるよ!悠人から手を引けばいいんだろ?」 「うん、そうだね」  悠人はこの状況に混乱し、喜は怒鳴り散らす興李に同意を示す。 「分かってるっつーの。回りくどいやり方しやがって……悠人お前サイテーだな、見損なったよ。もっと、誠実なやつだと思ってた。これでお前の面倒も見なくて済むと思うと清々するよ」 「え?興李?どういうこ」「早く出ていけ!もう顔も見たくねーよ」  興李のあまりの剣幕に身体がビクリと震えた。そんな悠人にの背中に喜は手を置き、安心させるように撫でる。 「ほら悠人。こうなってしまったらもうどうにもならないよ。行こう。」 「嫌!嫌だ!喜とは何にもないよ!興李と間違っただけで喜が好きなわけじゃない!捨てないで!捨てないで、興李!」  悠人は小走りで興李の元に行く。そして抱きついた。 「悠人、やめろ!分かった、罵倒したのは悪かったから……だから、早く、早くどっかに行ってくれ……」  悠人が抱きついたことで興李の凄い剣幕だった表情はなにかに耐えるような辛そうな表情に変わった。 「嫌だ、嫌だ!傍に居るだけでいいから!何でもするから!」  興李は悠人の肩を掴んで自身の身体から引き離した。 「もう……許してくれ。誰を好きであろうと振り向かせてみせるだなんて格好つけて悪かったよ」 「な、なんでそんなこと謝るの?僕はその告白、嬉しかったのに……なんで???」 「もう嫌なんだ。俺に抱かれながら喜のことを呼ぶ悠人を見るのは。耐えられないんだ。だから、俺を解放してくれ……頼む」 「いやだ、いやだあ、僕、喜のことなんて呼んでないよ?なんでそんな事言うの?そんなに僕のこと嫌いなの?僕にはもう興李しかいないのに」 「悠人のことが嫌いなわけがないだろ……」  興李はボソリと呟いた。傍にいる悠人だから辛うじて聞き取れるほど小さく。 「え?それって……」 「分かったよ。本当に何でもするんだな?」 「う、うん」 「そんなに言うならもう一度俺に抱かれて証明して見せろよ。そしたら傍に置いてやる」  先程呟いたことなどまるでなかったかのように興李は続けた。 「抱かれて?証明?」 「俺に抱かれている時に喜の名前を呼ばないことをだ。これから悠人には発情誘発剤を飲んでもらう。効き目はそこまで強いものじゃないから効いて発情期二日目くらいの症状だな。その状態で俺に抱かれて証明さえすれば傍に置いてやる。まあ、無理だろうけどな」 「い、今?」 「ああ、俺は別に悠人が俺の前から居なくなってくれればなんでもいいんだ。したくないなら別にいい」 「ま、待って!分かった。やる!やるから!」  興李は深い溜息を吐くとリビングに向かった。 「……どこに行くの?」 「ヤるんだろ?準備が必要だろうが」  そう言った興李は棚の引き出しから薬を取りだして悠人に投げつけた。 「嫌なら捨てろ」  見ればそれは発情誘発剤だった。  悠人はそれを躊躇わず飲み込んだ。 「ったく、馬鹿なヤツだ」 「興李、これって勿論俺も参加していいんだよね?」 「は?なんで喜が参加すんだよ、出ていけ」 「俺が参加した方が興李の勝率上がると思うんだけど?」  喜は興李の瞳をじっとりと見つめた。興李はそれに「……勝手にしろ」と投げやりに返事をする。 「どうせ番でも何でもない喜の出番なんてないがな。指加えて永遠に待てしてろ」 「…………」  喜は満面の笑みを浮かべた。

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