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6ー1

 その週の週末の金曜日。プレイの後託に泊まっていくかと聞かれて、答に窮した。  もちろん泊まりたい。だけど、託に迷惑をかけたらと思うと簡単に頷けない。  せめて何か役に立ちたい。 「朝ごはん作ってもいい?」 「いいけど」  託の家の冷蔵庫の中身を確認した。  食パンと牛乳と卵があった。  フレンチトーストでも作ろう。 「風呂入る?」  そういえばいつも帰ってからシャワーを浴びていたから、託の家で入るのは初めてだった。 「先どうぞ」  と託に告げると、 「一緒に入る?」  と聞かれて焦った。 「え? 何言って」  自分の顔がみるみるほてり出したのを感じる。託に見られてうつむいた。 「僕後でいいから、先入って」  託を無理矢理風呂に押しやってため息をついた。  託がそんなこと言うなんて。僕をからかっているのだろうか。  そこで重大なことに気付いた。ベッドは1つしかない。一緒に寝るなんて絶対無理。眠れないに決まってる。  この家にソファーはないが、リクライニングの椅子が1つあった。今日はそこで寝ようと思った。  風呂を借りた後、託に恐る恐る告げた。 「僕、椅子でいいから」 「体痛くなるよ」 「だってそんな」  一緒に寝るなんて恥ずかし過ぎる。  託のベッドは普通のシングルよりちょっとだけ広いけど、だからといって近付かずには寝られない。 「床とかでも別に」  そう言ったら託に聞かれてしまった。 「そんなに嫌なの?」  僕は焦った。今度こそちゃんと言わないと。 「違う」 「鈴也?」 「嫌じゃない」  嫌じゃないけど、色々な意味でやばいんだって。 「じゃあベッドで寝よう」  あっさり言われて二の句が継げない。託は何で平気なんだろう。意識してるのは自分だけだと思うとそれも悲しかった。  押し切られて仕方なく一緒にベッドに入った。  託と向き合って横になると、とたん意識してしまう。心臓の音がうるさい。聞かれたらやばいのに。 「鈴也?」 「託の方こそ嫌じゃないの?」 「何で?」  俺たちってどういう関係? パートナーでもない。ただプレイをするだけだ。なのに泊まったりして。 「どうして僕とプレイしてくれるの?」  僕はつい聞いてしまった。 「嫌なの?」 「そうじゃなくて」 「他にいないんでしょ?」 「うん」  いないんじゃなくて、託がいいんだ。 「託は?」 「嫌じゃないよ」  そうじゃなくて、他にいるの? なんて聞けなかった。  心臓の音が鳴り止まない。そのうちに託は僕と逆の方を向いた。僕はほっとしながらも、寂しい気持ちになった。  側にいられるだけでいいと思ったのに、もっと欲張りになる自分に困惑した。  うっすら目を閉じ、うるさい心臓を落ち着かせようと深く息を吸って吐く。  うとうとして気付いたら眠っていた。

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